「わが神、ビートルズ」

お酒は全く飲めないんです

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 「お話しするような趣味や嗜好はあまりないんですよ」と申し訳なさそうにおっしゃる。そこで「作家の中にはお酒やたばこなどにこだわりをお持ちの方もいらっしゃいますが」と水を向けると、「ああ、以前、お酒で死にそうになったことが……」と、まずは酒談議から始まった。その後、半世紀以上に及ぶビートルズ愛が滔々とうとうと流れ出した。ご自宅のある山梨・清里から小淵沢までご足労願ってのインタビュー。

 お酒にまつわる話とは?

 「いやあ、酒は全く飲めないんです。体が受け付けないんです。アルコール分解酵素がないんでしょうね。料理に酒が入っているものがありますが、あれはアルコールを飛ばしている場合が多い。でもお菓子はそのまま入っていて、てきめんダメですね。以前、栄養ドリンクをケースで送ってくれた出版社がありまして。日ごろは飲まないんですが、風邪をひいたとき、1本飲んだら30分後に呼吸ができなくなって、ワーワー騒いで大変なことになり、こりゃダメだ、死ぬかなと思いました。幸い、何とかおさまって救急車を呼ぶまでには至りませんでしたが、そのドリンクに微量ですがアルコール分が入っていたんですね。風邪で鼻が利かなくなっていて、気が付きませんでした」

 ご両親も飲めない?

 「母方の親戚はみんな下戸ですね。だから例えば、結婚式では相手側はお酒が入って盛り上がっているのに対して、こっち側は静かに黙々と食べているといった感じ。お通夜の席ですと、お酒が入るのが普通ですけど、うちではしんみりとした、実に亡き人をしのぶような雰囲気のいいお通夜になります」

 お父様の系統は?

 「父方は少し飲めたのかな。オヤジはキリスト教の牧師をしていて、あまり飲みませんでしたが、1年に1度の行事の聖餐せいさん式では、信者にひとかけのパンと少量のワインを与えるんです。そこで余ったワインはキリストの血だとされていますから捨てるわけにはいかないので、牧師が片づけることになるんですが、飲んで顔が沸騰したように赤くなっていた父を覚えています」

 井上さんご自身、作家生活をしていると、酒を飲む機会が多いでしょう。

 「酒を飲む場に連れて行かれることはありますが、僕はジンジャーエールか、ウーロン茶を飲んでいます。なぜか、担当編集者には飲んべえが多いですねえ」

 お酒は飲まなくても座持ちがいい人もいますね。

 「ただ、僕はそういう場に長くいると、頭が痛くなってくる」

 私の知人に、奈良漬けを食べただけで顔が赤くなる人がいます。

 「僕は小さい切り身3枚が限度ですね。まあ、ほとんど食べませんが」

 大学生の頃、仲間の飲み会で飲めない男に少しならと飲ませたら、顔が真っ赤になりハアハア苦しそうに息をしていたのを見て以来、私は飲めない人には無理に勧めないことにしてきました。

 「本当に危険ですよ。僕も昔、これはおいしいワインだからと勧められて、チロッとなめる程度の量だったんですが、その帰りの電車の中で気を失い、気が付いたら駅のベンチで寝かされていました。それに病院でも注射する際、アルコール消毒するでしょ。あれもダメ。真っ赤に腫れるんです」

 酒を受け付けない体質は、作家活動に何か影響はありますか。

 「飲めなくて残念だと思うことはありますね。小説を書いていても、僕の作品には酒を飲むシーンがほとんど出てこない。昔の作品で指摘されたのは、この場面でトマトジュースはおかしいでしょう、やっぱりここはビールでしょう、と言われたことがあります。ああ、そうなんだと一応書くことは書くけど、書いている本人は実感がわかない。それに酒飲みの口上がまったく自分のものとしては描けない。そういうときは、やっぱり飲めるといいなと思いますね。昔、とんかつ屋でバイトをしている時に、カウンターで飲んでいる人を観察していましたから、飲んべえのフリはできないことはないんですけど」

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