「とことんやる」

中途半端だと次も次もでなかなかやめられない

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 デビュー作「催眠」は映画化・ドラマ化され、主役はSMAPの稲垣吾郎。昨年連続ドラマになった「探偵の探偵」のヒロインを演じたのは北川景子。ともにこの正月、何かとマスコミの話題になった人物だが、映像になる作品が多いのも作家、松岡圭祐さん(47)の小説群の特徴だ。愛知県出身で実家がたばこ屋さんという松岡さんに、まずたばこの話からインタビュー。

 昔、「♪向こう横丁のタバコやの可愛い看板娘……」という歌がありましたね。

 「うちはおじいちゃん、おばあちゃんが店に座っていました。家がたばこ屋で、普通のたばこは見慣れていたので、20歳過ぎた僕は、シャーロック・ホームズみたいにパイプをくわえるか、映画に出てくる葉巻なんかでカッコつけようと。人がやっていないことをやりたかったんですね」

 「紺屋の白ばかま」という言葉もありますが、たばこ屋の息子がたばこを吸わない例もありますけど。

 「僕は20代にはすごく吸っていました。デビュー作となった『催眠』を書いているとき、ヘビースモーカーでしたね。何の出版のあてもなく書いていました。いろいろある文学賞の応募すら知らずに、とにかく書き込んだら何とかなると、今から思えば“根拠のない自信”みたいなものに突き動かされていたんでしょうね」

 どのくらい吸っていたんですか。

 「当時はカートン単位でバンバン買っていました。1日10箱くらい吸うチェーンスモーカーでしたね。気持ちを落ち着かせるためでしたが、でも半分は煙を肺まで深く吸いこまずに、単に吹かしていただけだったかな。作家の気分を味わいたいという気分もありました」

 そのデビュー作品が100万部を超すベストセラーになり、29歳でいきなり売れっ子作家になりました。

 「当時は、売れたといっても、そのレベルがすごいのかどうか自分ではわからない。宝くじの高額当選者に対してみずほ銀行(昔の第一勧銀)が作った『その日から読む本』という小冊子を渡して、税金のことなどを教えている。あの作家版みたいなのがあれば本当に助かったと思いますよ。売れてうれしいけど、どの程度羽目を外していいのかわからない。聞けば、翌年にドーンと地方税が来るぞと。そういうのもきちんと教えてくれるような本が必要ですよ。若い作家が江戸川乱歩賞など文学賞を受賞して賞金をもらっても、ワーッと騒いだ後どうなるのか、そのへんをきちんと書いた本がいりますよ」

 松岡さんは、当時、どの程度羽目を外したんですか。

 「20代からお酒は飲んでいましたから、売れてからはよく店に飲みに行って、高級ブランデーを入れて、パッとたばこを持つと女の人がサッと火をつけてくれる。そんな生活を3〜4年は続けていましたね。相当羽目を外しました。でも、34歳ころだったか、酒もたばこもパタッとやめました。僕は車も好きでしたので、酒はやめようと」

 そんなにピタッとやめられるものですか。

 「まあ、3年も4年も羽目を外していて、一生分やったかなという思いがしたので。不思議に、20代から10年近くやってきた酒とたばこ、両方いっぺんにやめられました。それに、幸いにも奥さんと早く知り合って、僕が29歳のときに結婚しましたから、それで変に羽目を外すことなく済みました」

 坂口安吾の「堕落論」じゃないけど、とことんやると見えてくるものがあると。

 「そうですね。中途半端だと次も次もと、なかなかやめられない。やるんだったらとことんやって、やりつくした感、満腹感を持つまでやる。十分堪能するところまでやれば、そのうち飽きが来て、依存症も克服できるかもしれない。例えば、パチンコがやめられない人に、1000万円を与えて、一気に使えと言ったら、もうやらないかもしれない。まあ金はかかりますけど」

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