「想像する楽しみ」

毎朝9時半に朝礼をしています

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 自宅外に執筆のための部屋を持つ作家は珍しくない。神永学さん(41)も自宅からオフィスに毎日“電車通勤”しており、「サラリーマン時代の癖です」と笑う。事務所には女性スタッフが3人。毎朝9時半に朝礼があり、体操をした後、各自持ち回りで、その日の時事ニュースを報告するという。これは作家の事務所にしては珍しいかもしれない。事務所でその辺の事情からインタビュー。

 一般企業や工場などでは、ラジオ体操や朝礼はよくあるようですが、作家の事務所で朝礼とは、何の目的でおやりになっているんですか。

 「メリハリをつけたいので始めました。さあ、今から仕事をするぞという気持ちになります。それに、その日のニュースをみんなの前で話すとなると、新聞を読むようになりますからね。時々、ネタがつまらないと僕がはじきます」

 ご自身は、ここで小説を執筆する以外、何かなさるんですか。

 「ここでは書くこと以外、しません。やはり集中力が高まり生産性が上がります。自宅で1本書く時間で、ここなら2本書ける。一人でやっていると、どうしても甘えが出て、ズルズルいってしまう。周りにスタッフがいると思うと、緊張感が違いますからね」

 2004年の作家デビューからすぐ事務所を持ったんですか。

 「デビューして4年目からなので、事務所を持って丸8年になります」

 執筆以外のところでは、どのように過ごしているのですか。

 「スタッフみんなと毎日映画鑑賞をしています。昼休みに昼食をとりながらDVDで見ています」

 それはまた、何のためですか。

 「スタッフ同士、共通言語を持とう、ということです。やはり、モノを表現しようという行為には、一緒にいる人同士が共通の言語を持たないと。そのために映画鑑賞をしたり、読書をしたり。なので、スタッフ向けに『最低これだけは読まなきゃいけない本100冊リスト』というのを作って、それを強制的に読ませています」

 それはどんな本ですか。

 「東野圭吾さんや宮部みゆきさん、大沢在昌さん、司馬遼太郎さんといった作家さんの代表作やデビュー作、それに本屋大賞、直木賞、芥川賞などの受賞作です。どうやって一時代を築いたのか、といったところで共通認識を持つことが大切だと思っていますから。今は出版社の編集担当ですらあまり本を読んでいない人が多いけど、うちの事務所では相当厳しく読ませています」

 映画鑑賞も同じ狙いで?

 「ええ。何を見るかについては、僕が選びます。ノンジャンルです。人によって好き嫌いがあると思いますが、嫌いな作品でも何が合わなかったか考え、逆にそれは面白かったという人の意見も知ることが大事なんです。例えば、全員がつまらない、設定がおかしいという作品がある。設定がおかしいけれど、何か引っ張られる作品もある。その違いは何なのかを話し合います」

 神永さんの映画との出合いはいつですか。

 「父親の影響ですね。山梨の自宅には、父親の仕事の関係で映画フィルムの切れ端がたくさんありました。それは音声が入っていなくて、僕は毎日映写機にかけて見ていたけど、切れ端だから前後の関係などまったくわからない。例えば、西部劇の切れ端には、男がかみそりでひげをそっていて、ガバッと顔に泡が付いたまま立ち上がるところまでしかない。一体、この男はなぜここにいて、これから何をしに行くんだ、とひたすら想像する。これが楽しかった。これが映像に興味を持ったきっかけで、物語を作る原点になったと思います」

 では、お父様とよく映画を見に行ったんですね。

 「連れて行ってもらったのは1回で、近所の小学校で上映した『風の谷のナウシカ』でした。それに衝撃を受けて、それからは一人で勝手に映画館に行くようになりました。小学3年生から4年生のあたりです」

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