自分の住んでいる所しか知らない人間が“田舎者”

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 鉄道の旅は、お一人ですか、あるいはご夫婦で?

 「夫婦で行くことが多いです。家内は鉄道ファンではありませんが、乗るのは好きです。鉄道の旅はボーッとできるのがいいと。とにかくよく寝ますが、本を読むいい機会だからと、付き合ってくれます。旅は私が全部プランニングして、行く前によく調べてから行きます。父親が行き当たりばったりの旅が好きで、旅館も現地に行ってから見つけるタイプでしたが、私は反動でちゃんとスケジュールを決めてから旅に出るタイプです。だから乗っていると、もうすぐ変わった駅があるよとか、いい景色が見えてくるよ、と解説したいのですが、そういうとき家内は大体寝ているので、起こさないようにしていますけど」

 理屈っぽくなりますが、旅の効用というか、多くの旅行をして何かいいことはありましたか。

 「大学生のころに友達と東北をローカル線で回ったとき、三陸海岸など今回の東日本大震災で被災した地域にも行きましたが、至る所で列車が3時間に1本しかなかったり、30分待ちや2時間待ちは当たり前だった。そのときわかりました。自分の普段の暮らしは日本のごく一部にしかすぎないんだと。自分が田舎者だったと気づきました」

 いろいろな所でいろいろな人がいろいろな生活をしている。映像やインターネットの情報が氾濫する情報化時代でも、やはり現場に行かないとわからない、感じないことがあるんですね。

 「私のいう田舎者は、自分の住んでいる所しか知らない人間のことを指します。だから、都会からへんぴな場所に行って、あれもないこれもないと大騒ぎしている人も田舎者です。あれもないこれもないのが普通だろう、と思わないのか」

 全国各地を回っていると、アリの目と鳥の目と双方の視点を持つようになるのではないですか。

 「旅行するようになってから、モノの見方が変わりました。美しい風景をたくさん見ましたが、日本はこれでいいのか、とも思うようになりました。20年ほど前にふらっと降り立った所が、今はほとんどが寂れています。以前はにぎわっていた町が、えっ? こんな寂れた町だったかなというくらい変わっている」

 限界集落が全国に充満して、人が住めない地区がどんどん増えています。政府は地方創生の掛け声のもとに、団塊の世代から上の高齢者を都会から地方に移住させて、地方の再生へとつなげる政策を掲げています。

 「私は、もう手遅れだ、打つ手はないと悲観しています。何十年前に全国の市町村から東京に働きに来た人が今はおじいちゃん・おばあちゃん世代。孫は東京生まれで、おじいちゃんが〇〇出身だといっても、もう関係ない。引き返す所がもうないですよ。200年、300年続いてきた故郷の祭りが消えつつあるのを防ぎようはないですよ」

 たくさんある鉄道旅行の魅力のうち、有栖川さんは何に魅力を感じていますか。

 「子どものころ、車窓から見える風景が好きでした。子どもだと普通、20分か30分もすると飽きるものですが、私はずっと見ていてもまったく飽きませんでした。というのも、目に入るものすべてにお話を作るんです」

 景色を見ながらストーリーを作る?

 「例えば、小学校の校庭が見えたら、あそこで子どもたちはどんな遊びをしているのか、たばこ屋さんが目に入ったら、もしあそこの子に生まれていたらどんな人生を送っていただろうか、土蔵を見たら、あの中で事件が起きたら……など、次から次へと空想するんです。それが楽しかった」

 そういう楽しみ方は今でも続いているんですか。

 「宮脇さんのエッセーを読むと、知識が増えると風景の意味が濃くなることがわかる。城を見たらどんな合戦があったか、どんな映画になったか、小説ではどう描かれていたかなど、歴史、文化、食べ物など知れば知るほど風景の意味が濃くなりますね」

 子どものころからストーリーテラーだったことがうかがえますが、物書きになるきっかけのようなものがあったんですか。

 「小学生のころから本を読むのが好きでした。小学4年生のとき、毎日小学生新聞に『シャーロック・ホームズの冒険』の書評が出ていて、本屋さんに行って買って読んだら、すごく面白かった。それまでは宇宙人の出るSF小説を読んでいたんですが、自分にとっては推理小説の方が面白いと感じました」

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