「人形は時間泥棒」

私は空白が許せないタイプなんです

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 同じ職場で働く女性3人が休日、会社の保養所で退屈まぎれにトランプのババ抜きを始める。そんなありふれた日常風景から物語は次第に非日常世界にずんずんと入り込んでいく。読後、ヒヤリと背中が寒くなる短編ミステリー小説「ババ抜き」で、今年の第69回日本推理作家協会賞を受賞した永嶋恵美さん(51)。この作家インタビューシリーズは今年になって女性の登場が多い。須賀しのぶさんはフラメンコ、柚月裕子さんはベリーダンス、と踊りを楽しむ話が続いたので、今年3人目の永嶋さんに水を向けたら、「いえいえ、私はインドアのオタクでして。はい、今日はこんなドールを持ってきました」と早速、人形談議からインタビューが始まった。

 人形の前にある、このネズミの形をしたものは何ですか。

 「これはヒメネズミの食玩です。もう10年以上前でしたか、アニメーターの友人と集めていまして、8時間も行列に並んで買ったものです。フルタ製菓と海洋堂がコラボして作った、小さくて精巧なチョコエッグです。シリーズもので、私は第4シリーズから買い始めたんですが、友人は第1シリーズから集めています。イヌ、ネコ、ハムスター、ミドリガメなど動物やペットのシリーズが出ています」

 コレクションする喜びは何ですか。

 「というより、私は空白が許せないタイプなんです。これは1シリーズ24個なんですが、リストに空欄があるのがすごくイヤなんです。ダブりがあっても集まるまで買ってしまう。フルコンプ(リ―ト)体質。間が空いていると、ものすごく気持ち悪くなる」

 買い物スタンプのように、全部押してもらわないと気が済まない気持ちと似ていますね。

 「ええ。私の子どもの頃は物が少ない時代で、あまり裕福な家庭でもなかったので、子どものときに買えなかったものもありました。それが大人になって買えるようになって、その穴を埋めたくて買うこともあります」

 この人形もそうですか。これはなんという人形ですか。リカちゃん人形と……。

 「リカちゃん人形とジェニーちゃん。大きさから6分の1人形と言ったり、ファッションドールと言ったり。子どものころからタカラのこのシリーズが好きで、これだけで300体から400体くらいは持っています。数えるのをやめたので正確にはわかりませんが、3桁は行っています。このほかにも、ボークスから出ているスーパードルフィーやセキグチが出しているmomoko(モモコ)ドールなど数十体はあります」

 以前うかがった新井素子さんは縫いぐるみの膨大なコレクションを自宅の隅々に展示していると話していましたが、永嶋さんの場合、やはりご自宅に?

 「スチールの本棚に立てて飾っていたんですが、あの3・11、東日本大震災の時、自宅のある神奈川県は震度5強の揺れに見舞われて、本棚は天井までの高さがあったんですが、倒れはしなかったものの、上半分が真っ二つに折れて、人形はバタバタと下に落ちてしまいました。ほこりまみれになって見るも無残な状態でした。1個ずつエアスプレーでほこりを取りましたが、大変でした。震災以後、もう二度と買うまい、増やすまいと誓ったのですが、可愛いのが出てくると、その誓いを破ってしまいます」

 子どもの時からずっとコレクションをしてきたんですか。

 「大人になって結婚して、子供が小学校に上がったころでしたか、雑誌『アンアン』を見ていたら、ジェニーちゃん人形がファッションメーカーとコラボして大人の服を着た人形を出すと知って、久しぶりに買いました。買ってそれを手にしたら、やっぱりいいなと。それからいろいろ買うようになりました」

 本当にいろいろな人形があるんですね。一昨年でしたか、六本木ヒルズで開かれた大規模な人形展に行って、目が開かれました。

 「大人になってからの人形遊びの楽しみって、実は自分の好みの服を自分で縫って着させるのとワンセットなんだと気づきました。でも私は昔からミシンが苦手で不器用でした。家庭科はみんな母親にやってもらっていたし、息子の保育園グッズも手芸屋のおばさんに『縫ってください。手数料は払いますから』と頼んでいました。ずっとミシンは使っていなかった。でも、ある日、ミシンを取り出してきて、1週間不眠不休で縫いました。初めて自分で服を縫いました。これはやり出したらハマりますね。息子から『僕の服は一回も縫ってくれなかったのに、リカちゃんのは縫うんだね』と突っ込まれました」

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