「現実から逃げてもいいよ」

テキーラ・マエストロ

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 日本軍と戦い、次いで中国共産党軍と内戦を繰り広げた末に、台湾に渡った中国人の祖父。その劇的人生を酵母にして、ミステリーの香辛料を加えながら孫の青春物語に発酵させた小説「流」が昨年、第153回直木三十五賞を受賞した。小説の舞台となった台湾で生まれ、5歳まで台北市で育ち、両親と日本に移り、9歳から現在まで福岡県に住んでいる作家の東山彰良さん(48)。インタビューは福岡市のホテルの一室で始まった。「お酒は何でも好き」という話から、まずテキーラ・マエストロの資格を取るに至った話へと移っていった。

 このテキーラ・マエストロというのは、ちゃんとした資格なんですね。

 「日本テキーラ協会が設けているものです。2011年からテキーラ・ソムリエ講座が始まり、2013年からテキーラ・マエストロ講座に変わりました。僕は第7期だったかな、東京へ行って講座を受けました」

 どんな内容の講座で、どんなテストをするんですか。

 「4回の講座があって、終わった後でテストがあるんです。テキーラの歴史から造り方、テロワール、種類、分類までひと通り」

 テキーラ好きな東山さんだったら、ご存じのことばかりでは?

 「いえいえ、初めて知ることばかりで、とても勉強になりました。ふつうは4日間の講座なんですが、僕は博多から夏、上京したということもあって、4講座を2日間にまとめてくれたんです。知識を得るだけでなく、試飲に次ぐ試飲という感じで、先生が『じゃあ、飲んでみましょう』と15種類くらいテイスティングする。その中からいくつかが試験に出るんです」

 そういう試験を受けようというきっかけは何だったんですか。

 「新聞の地方版に、西日本地区でテキーラ・マエストロの資格を取った方が載っていたので、僕もと。その方とは今も家族ぐるみの付き合いをしています。まあ、一つの遊びというか、真剣に遊んでみましたということですね。東京に行って、好きなバンドのコンサートを聴きに行くというノリでした。といっても、試験に落ちる方もいるんですよ」

 そもそもテキーラという酒と出合ったのは、どういう状況でしたか。

 「学生の頃は安い芋焼酎ばかりを飲んでいて、その後はビール、日本酒、スコッチウイスキーなどいろいろな酒を飲んでいました。20代後半でしたか、台湾に帰った時、従妹が好きで飲んでいたのがテキーラでした。僕も初めて飲んでみて、味がしっくりとくるので、好きになりました。僕はあまり酔っぱらいたくなくて、ほろ酔いがいい。だから酒の味を楽しみたい方で、テキーラはぴったりでした」

 私は以前、神戸のバーで飲んだことがあります。いろいろ種類は豊富ですか。ラム酒などはメキシコや中南米各地で造っているようですが。

 「テキーラというのはメキシコのテキーラ管理評議委員会で細かく決められていて、ハリスコ州を中心にしてその周辺を含めた地域で取れるアガベ(リュウゼツラン)を原材料に、メキシコ国内五つの州で蒸留された酒だけをテキーラと呼んでいいと。一般的にはメスカルという酒で、メキシコのテキーラ村で造られるものをとくにテキーラと呼んでいる。フランスのシャンパーニュ地方で造られる発泡酒だけをシャンパンと呼ぶのと同じですね」

 味や香りもいろいろですか。

 「たる熟成しないブランコという若々しい酒、2カ月以上たる熟成したレポサード、1年以上たる熟成したアネホ、3年以上のエクストラ・アネホというタイプに分かれています」

 私も酒好き人間ですが、酒単体を楽しむというよりは、何かおいしいものを食べながら、それに合う酒を飲むのが好きな方です。テキーラには、どんなものが合いそうですか。

 「僕は飲み始めたらあまり食べなくて、何かをつまむ程度で、おいしいものがちょっとあればいい方です。よく日本酒に塩辛が合うと言いますが、テキーラと塩辛はダメですね。生臭くなっちゃう。若々しいブランコなどはアタックが強いから刺し身に合いますね。それにテキーラは果物との相性が良くて、そう、パイナップルと合いますよ。ちょっとタバスコをかけるといい。テキーラにパイナップルの取り合わせ、これは僕一人が言っているだけなんですが、みんな驚きます。バーに行くとスコッチウイスキーにイチジクやレーズンといったドライフルーツが出てくるでしょう。それと似たようなものですよ」

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