「自分の好きなことをする」

人間の運命の不思議さを感じてもらいたい

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 刺激の多い猥雑わいざつな都会の街を舞台に、迷いながらも自分らしく生きる青春群像を描いた「池袋ウエストゲートパーク」や、思春期を迎えた男子中学生の心と体を生体解剖した直木賞受賞作「4TEEN」など、作家・石田衣良さん(56)の小説の多くは少年や若者たちが主人公になっている。さらに、神戸・連続児童殺傷事件や大阪教育大付属池田小無差別殺傷事件など現実に起きた出来事から想を練った作品もある。今の時代とこの社会への関心が色濃く出ている。だからこそ、石田作品は現代の若者の胸に届くメッセージ性が強いのだろう。ドラマや映画やマンガになる作品も多い。その辺りからインタビュー。

 お書きになった小説の多くがドラマや映画になっていますね。原作者から見て、なぜだと思いますか。また、映像化に際しては、原作者としてまったく作り手にお任せの作家がいる一方、結構細かい注文を出す方もいるようですが、石田さんの場合はいかがですか。

 「僕はもう投げっぱなしですね。映像作品は監督のものだと。小説がお刺し身ならば、映像はステーキで、それぞれ別のおいしさで成り立っているものと考えています。なぜ映像化される作品が多いか、……わかりません。一つ言えるのは、僕の作品に時代性があるからかもしれない。トピックを扱った作品や青春ものが多いからかな。映像側にも、新しい青春スターを育てたいという思いがあるからでしょうか」

 「池袋ウエストゲートパーク」をはじめとして、「4TEEN」「アキハバラ@DEEP」「下北サンデーズ」「美丘」など、映像化された作品はもういくつくらいに?

 「10作か11作かな。あ、この3月25日スタートのWOWOWでオンエアされる『北斗 ある殺人者の回心』(全5話)が、一番新しいドラマです」

 ああ、あの小説は私、読むのがつらくなりました。幼少期から両親の暴力を受け続けた男の子の話ですからね。とくに前半の虐待を受ける場面などはなかなか読み進められなくて何度もページを閉じました。でも、書くときはスイスイと書けたのですか。

 「いやあ、書くほうも重くてつらかったですよ。映像作品のほうでも、主演の中山優馬さんが瀧本智行監督に『死刑判決が出るかもしれない裁判の判決公判を前にして、当人だったら、きっと体重が10キロは落ちるよな』と言われて、『あ、やるしかない』と減量を頑張ったそうです」

 あの物語は、どういうきっかけで執筆しようと思われたのですか。

 「ふつう、殺人犯というと、怪物、モンスター、極悪人をイメージする人が多いでしょうが、ごくふつうの人がたまたま悪い歯車に巻き込まれた結果、殺人という重大な罪を犯してしまう、つまり人を殺す人もふつうの人なんだよ、ということを書きたかったんです。偶然が重ならなければ、そんなことにはなっていないという、人間の運命の不思議さを感じてもらいたくて。例えば、カッとした現場に、たまたまリンゴをむいたばかりのナイフが置いてあったとか、そんな二つか三つの偶然が重なった場合に、最悪の事態が引き起こされるという」

 児童虐待、DV(家庭内暴力)の描写が読んでいて息苦しくなるほどでした。実際に取材されたんですか。

 「実際にあったいくつかの殺人事件や虐待事例を調べて、関係者から話を聞いて、いくつかのケースを交えてああいうストーリーを作りました。登場人物の子どもの頃から付き合って、だんだん彼の運命が狭まっていく、その運命から逃れられない、というところを書いていくのは、すごくつらかったし、苦しかった。悲惨な状況に無理やり自分を置くわけですから。書き上げるまで3年から4年もかかりました」

 執筆したころと比べても、5年たった今のほうが社会全体では虐待事件は増えているんじゃないでしょうか。

 「減りはしないでしょうね。表に出てくる件数は増えています。僕は作家デビューして20年になりますが、20年前の日本社会と比べると、今のほうが貧しい人や生活が苦しい人が増えていますね」

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