土日は絶対仕事はしません

2/3ページ
 

 オイルショックならぬ、コミックショックでしたねえ。

「社内で毎日ボーッとして、何もやることがないから、仲間とマージャンです。そのころ、社内では競馬をやる人がいて、毎週土曜日には競馬の話が飛び交っていて、僕の耳にも入っていたんですが、やったことがなかった。ところが、コミック雑誌の話がダメになった後、マージャンをやっているときに、仲間の一人が何を買うか聞いてきたので、適当に『じゃあサブロク(3—6)でお願いします』と答えた。しばらくしてから、その人が『2600円だ』と言いに来たので、『当たったの? たった2600円?』と答えたら、『お前は1000円出したから配当は2万6000円だ』と。ええ、すごい。僕の給料の半月分だ!とびっくりしたのが最初です」

 それがまさしくビギナーズ・ラックというやつですね。

 「その次はハイセイコーが出ていた菊花賞のときだったか、やはり3―6を買ったら900円がついた。3度目は3―6ではないんですけど、その年の有馬記念で適当に200円買ったら1万2600円の配当だった。三つとも当たったんですよ。これはもう絶対ハマりますよ」

 それ以来、ずっと競馬にハマって40年以上も?

「ええ。ただ、一時期10年ほどやめていましたが、武豊人気、オグリキャップ・フィーバー、馬連が始まった頃から再びハマって、さらに20年以上前からはサンスポ系の雑誌『ギャロップ』に連載記事を書き始めたので、もうこれは仕事になっちゃった。競馬場に行かなければ原稿書けないから、を口実にして毎週土日、今も行っています」

 その時に仲間と待ち合わせをするわけですね。

 「僕が待ち合わせ時間を決めて、競馬場で落ち合うようにするんですが、4人で指定席に入るためにはきちんとそろわないといけない。だから、若いヤツが遅刻したりすると、遊びの約束は守れ、と怒るんですよ」

 毎週の土日は、必ず競馬場に?

「だから土日は絶対仕事はしません。1週間5日しか働かない。だって、競馬が楽しみで仕事をしているんですから。逆に仕事がはかどりますよ。金曜までに仕事を終わらせようと必死でやりますからね。月~金は会社で寝泊まりしていました」

 先ほど、あまり自宅に帰っていないとおっしゃっていましたが、それは会社泊まりが日常だということですか。

 「友人と僕とで小さな出版社を経営していましたが、社員11人の零細会社っていうのはどこもだいたいこんなものですよ。僕は週末に洗濯物を持って自宅に帰り、土日は競馬で、月曜からまた会社泊まり、という生活を20年以上続けていました。2人の息子がいますが、全然父親としてやるべきことなどしていません。カミさんに感謝しないといけないですね。息子2人は反抗期がなかった。何か欲しいと言っても月~金に父親がいないもんだから、カミさんが『お父さんが帰ってくるのを待ちなさい』と。つまり、父親である僕が金を出すスポンサーだったわけですね」

 よくまあ、グレずに大きくなったもんですねえ……。

「長男はもう社会人で、次男は教員めざして勉強中です。息子には結婚式は絶対に競馬のない日にしてくれ、と以前から言っていました。土日なら、せめて重賞のない土曜日にしてくれと頼んでいたら、上の子の時は土曜日にしてくれました」

 北上さん自身、10代から本当にたくさんの本を読む生活を続けてきたわけですが、親として我が子に「本を読め」と勧めることはあったんですか。

「一回も言ったことはありません。第一、ふだん家にいないヤツが言う資格ないですよ。仮に、一冊も本を読まなくても一向に構いません。ただ、長男が中学3年生で高校受験の勉強中に、『あの本の続きはあるの?』とカミさんに聞いて来たらしい。それは僕が息子に渡していた小野不由美さんの『十二国記』の講談社文庫本でした。ファンタジーで、生きるとは何か、戦争とは、友情とは、国とは……という普遍的なテーマが書かれていて、大ベストセラーになったシリーズ本で、僕自身、感動した本でした。そういう大事なことは本来、親から息子に伝えるべきものでしょうが、僕には言う資格がない。自分が言えないからこそ、この本で学んでほしい、親と同じ感動を味わってほしいという気持ちでした」

  • JT
  • 日本推理作家協会