知の架け橋

「震災・防災を考える」⑦ 謙虚な心で「原点回帰」を 3.11以後のマーケティングを考える 政治経済学部経営学科 遠藤誠二 教授

2012年5月1日掲出

 「3.11」は、少なからず日本の企業活動に影響を与えています。輸出の減少と発電用燃料の輸入により、貿易赤字の傾向が続いています。

 しかし、それ以前から世界での日本企業の地位は低下していました。日本製品が世界を席巻していた自動車や薄型テレビの市場は、驚くほど変化しました。要因の一つが1990年代から続く日本企業の内向き傾向であり、まさにガラパゴス化です。一見、日本は90年代よりも住みやすい豊かな社会になってきたように見えますが、一方で「メイド・イン・ジャパン」製品の質の低下、魅力のなさには落胆させられることが多いです。

 「3.11」は、このような日本の企業に対するウェイクアップ・コールになったのではないでしょうか。

 これまで多くの日本企業は、欧米企業が開発した製品を改良/カイゼンする、いわゆるキャッチアップ型の製品開発を進めてきました。しかし、それだけでは創造的でイノベーティブな世界の企業には太刀打ちできず、残念ながら現在、世界に通用するイノベーティブな日本製品は非常に少ないです。今の日本企業は、小さな国内市場の中で果てしない不毛な製品開発を続けて消耗しきっています。その結果、日本製品は世界の市場から徐々に後退しつつあるのです。

 人々の生活を豊かにし、わくわくさせてきた日本製品が、世界市場に再び登場するのでしょうか?

 このような状況の中で、「3.11」が起きました。この巨大な自然災害は、日本企業に「マーケティングの原点に戻れ」と強く迫っているのではないでしょうか。これまでのマーケティングの方法は通用しません。

 最近、よく「日本食は世界一の食べ物だ」と聞きますが、それは「日本人にとって世界一」ということでしょう。そんな不遜な気持ちで、「メイド・イン・ジャパン」製品が世界に普及するのでしょうか。世界には日本人の感覚ではとうていわからない「おいしい」という基準が存在しますし、多くの「おいしい」食べ物が潜んでいます。そこにこそ、新しいビジネスチャンスが生まれるのです。そして、それを見抜く力をマーケティングは与えてくれるのです。

 日本でとても人気のあるP・F・ドラッカー(1909〜2005)は、マーケティングの目的は販売活動を不要にすることだと強調しています。言い換えれば、強力に販売活動を推し進めなくても、マーケティングが機能していれば自然に社会に浸透するイノベーティブな製品が開発できるということです。

 日本の企業は戦後、ターゲット市場に対して謙虚な心でマーケティング・リサーチを行い、真摯に現地の人を豊かにする製品を提供してきました。もう一度、謙虚な心で相手の市場の人々と対話し、彼らの生き方を注意深く観察し、彼らをわくわくさせる商品を提供してゆけば、「メイド・イン・ジャパン」製品が再び世界に普及することは可能であると思います。

 昨年、日本は世界一の援助受け入れ国になったといいます。日本には、もう一度世界に恩返しする責任があります。「3.11」以降の日本企業の世界でのマーケティング活動に、微力ながら協力していきたいと思います。

えんどう・せいじ

慶應義塾大学商学部卒業。専門はマーケティング。研究分野はマス・カスタマイゼーション。特に、オンライン・マーケットにおける消費者と企業の関係性についての分析。

(記事提供:「東海大学新聞」2012年4月1日号)

関連リンク:政治経済学部
http://www.u-tokai.ac.jp/undergraduate/political_science_and_eco/index.html

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