知の架け橋

「震災・防災を考える」(14)ハードへの過信は禁物 『経済効率優先の街づくり』への警鐘 国際文化学部地域創造学科 石田秀樹 教授

2012年12月3日掲出

河川を埋め尽くす土石流〔遠別町と中川町の境界付近〕,時間雨量60mm超の集中豪雨の爪痕(2011年6月,撮影:佐藤進・道北の防災を考える会)

 2010年12月に、有志による「道北の防災を考える会」が旭川に設立されました。地質や測量の専門家、気象予報士、地震の研究者、元行政マンなど異業種の手弁当集団です。都市の気候特性を調べていた私にも声がかかり、末席に加わることとなりました。

 札幌から140キロあまり北に位置する旭川は、災害の少ない街といわれていますが、40年ほど前までは一度に数千戸が流潰する洪水被害が頻繁に繰り返され、直近では15年前にも4名の死者がでる洪水に見舞われています。市街地の堤防整備が進んで洪水の心配から開放されたと思いたいところですが、近年の集中豪雨では市民に見えにくいところで土砂崩れや河川の氾濫(はんらん)が頻発しており、万が一、堤防やダムに亀裂でも入ったらひとたまりもないとの専門家の指摘もあります。その3カ月後、東北を襲った大震災の揺れは旭川にも伝わりました。”地殻”と”文明”に溜まった歪みが限界に達する中、暮らしの安全は綱渡りの状態にあります。

 大震災から8カ月後の2011年11月に、旭川地方気象台の企画で開催された「防災気象講演会」で、気象・治水の専門家との対談を仰せつかりました。講演会に先立って、パネラーの方々と同年9月に旭川圏を襲った豪雨の被災状況を視察しました。美しい農村景観で知られる「美瑛の丘」は大規模な表土流出で耕作地や道路が破壊され、土砂で埋まった〝調整池〞はその機能を失い、川沿いの道は流されて河床と化し、橋脚の基礎がむき出しとなって不安定な姿をさらしていました。この豪雨では、道の崩落に気づかずに通行した2人の方が命を落としています。講演会当日には超満員の会場からも多くの発言があり、暮らしの安全に対する市民の関心の高さを強く感じました。自然現象が「災害」となる要因は地域によって一様ではありません。演者が口をそろえたのは、「ハードへの過信は禁物。行政からの指示を待っていては間に合わない。危ないと思ったら逃げろ。自分の町をよく知ること。日常的な“互助”の仕組みづくり(ソフト)が大切。」。“匿名性”に居心地のよさを見いだす都市生活者にとって重い課題です。

 今年2月に某放送局の記者が電話で、「旭川にある小学校の体育館での宿泊避難訓練に参加したが、あまりの寒さに寝るどころではなかった。」と伝えてきました。“雪と寒さ”は北国の美しさを際立たせる一方で、対応を誤れば命取りになります。電気が止まれば平時の暖房器は使えません。阪神・淡路大震災では、寒さのために3000人近くの方が肺炎で亡くなっています。最低気温マイナス25度、積雪深2メートル、人口35万人の旭川市が用意している毛布はわずかに3500枚です。過酷な災害は、全国一律の「経済効率優先の街づくり」への“警鐘”でもあります。

いしだ・ひでき

1953年北海道生まれ。北海道大学工学部建築工学科卒業。北海道大学大学院工学研究科建築工学専攻博士課程修了。工学博士。専門は建築環境学。日本建築学会、日本雪工学会、住まい・環境教育学会、日本木材学会、北海道建築技術協会などに所属。著書に『住まいの断熱読本 夏・冬の穏やかな環境づくり』『都市環境のクリマアトラス』『生活科学概論 くらしと住まいを考える』などがある。

(記事提供:「東海大学新聞」2012年11月1日号)

関連リンク:国際文化学部
http://www.u-tokai.ac.jp/undergraduate/international_cultural_re/index.html

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