知の架け橋

「住を語る」⑪
住んでよし、訪れてよし 景観に見る“もてなしの心”
観光学部 屋代雅充 教授

2016年8月1日掲出

 今回は「住」を建物の外側、つまり景観の視点から考えてみたい。観光まちづくりを考えるうえで「住んでよし、訪れてよし」という観点はきわめて重要である。住み心地がよく、安らぎが得られ、美しく誇りを持って暮らせる場所であることは、住む人にとっての理想である。そのような場所を訪れた人々は、再訪してみたいと思ったり、そこに住んでみたいと感じたりするようになるだろう。

 筆者は、独立行政法人日本学術振興会の科研費も活用して「景観体験における空間のホスピタリティと眺望の価値に関する研究」に継続的に取り組んでいる。一般にホスピタリティという言葉からイメージされる内容は、来訪者を迎える側の人の笑顔・あいさつ・ふるまい・言動などの接客態度によって表現される「もてなしの心」を指す。

日本庭園に見られる花と飛び石による空間の歓迎表現(岡山・後楽園)

 しかしながら空間表現によっても人をもてなすことができる。たとえば、門前の打ち水や掃き清め、手入れのよい庭や咲き誇る花々などは、来訪者や通行人に対して歓迎の気持ちを表し、もてなしの心を景観によって表現することができる。さらに地域に固有のランドマークになるような建造物や、山の眺望も歓迎表現となる。訪日外国人にとって富士山の眺望は、大いなる歓迎表現となるであろう。逆に高くそそり立つ無機質な塀や無表情な建築、垂直護岸で囲まれた薄汚い水路などは、排他的で親しみにくい印象をもたらし、状況によっては二度と訪れたくないような不快な印象さえも与えてしまう。

 一方、良好な眺望が経済的価値をもたらしている例として、レストラン、不動産、ホテルの客室、展望台などを挙げることができる。こうした経済的価値の背後には、眺望がもたらす人間にとっての本質的な価値が潜んでいると考えられ、たとえば次のような仮説を立てることができる。

 眺望によって、①いち早く危険(災害や敵の襲来)を察知できる、②危険(災害や敵の襲来)を回避できる環境にいることを確認できる、③自分が危険(災害や敵の襲来)の到達を遅らせる環境にいることを確認できる、④以上によって安全を確認できる、⑤これにより安心感や安息感が得られる。つまり、眺望とは自分の身の安全と居心地のよさを確認する動物的な手段なのではないか、と考えるわけである。

 こうした景観の良否を評価する際には、文化現象としての景観評価と生態現象としての景観評価の両面から考えていく必要がある。前者は主に文化(言語・習慣・風習など)を通した見方で景観が評価されるのに対して、後者は動物的な空間体験を通して評価できる身体感覚的な評価の側面である。

 2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。来訪者にも高く評価されるような日本ならではの景観の形成を推進し、空間のホスピタリティを充実させていきたいものである。

やしろ・まさみち
1953年静岡県生まれ。東京教育大学卒業。東京大学大学院修了(農学修士)。1980年地域計画系コンサルタント㈱ラック計画研究所に入社し2008年までの10年間代表取締役。88年より技術士(建設部門・都市及び地方計画)。91〜15年度東京大学農学部および同大学院新領域創成科学研究科で非常勤講師兼務。08年から東海大学非常勤講師、観光学部設置準備に携わり、10年度から観光学部教授。

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