知の架け橋

「国際化を考える」⑥
Global Citizen になるとは? 岡倉天心が教える国際化の道
国際教育センター アブドーラ・アルモーメン 准教授

2017年6月15日掲出

1906年に英語版初版が刊行された『茶の本』(岩波文庫)

 ここ数年、さまざまな分野で「グローバル化」が話題を呼んでいる。大学の世界でも議論が尽きない。グローバル人材、グローバル企業、グローバル社会、グローバル大学などとグローバル絡みの新しい概念が次々と打ち出される今。日本も試行錯誤しながら、時代に遅れないよう必死でついていこうとしている。

 一方で日本の若者は、海外留学者数が減少するなど「内向き化」しているという議論が盛んになっている。ブリティッシュ・カウンシルの調査によると、「あえてリスクを負ってでも海外に飛び出し、知力と体力の限界に挑戦してみようとするよりは、日本国内でできることの中から、それなりにやりたいことを探したほうが無難と考える傾向が強まっている」という(田中梓2010)。日本人のハングリー精神はどこへ行ってしまったのだろうか。

 日本に来てから今年で20年の月日が経つ。来たばかりのときの全財産は8万円と片道のチケットだけだった。貧しかった学生のころ、東京の酒屋でアルバイトをしていた。まさにギリギリ生活の苦学生。学費を稼ぐのに必死だった。今となってはその苦い日々も懐かしく思い出されるが、当時は本当に大変だった。まさか、日本の大学で日本語や言語学を教えることになるなんて思ってもみなかった。

 しかし、私はここで学んだ。自分の視点だけでなく、相手が考える視点をつかむことが政治やビジネス、何においても互いがうまくいく必須条件であることや、世界は自分の国だけで完結しているわけではなく、世界とのつながりで成り立っていることを。

 Global Citizenになるってどういうこと? これは何年も前に学生の一人が聞いてきた質問だ。「国民という狭い概念から解放されることです」と私は迷わずに答えた。「国民」という狭い概念から世界の「市民」という概念へ。アジアの市民として、また、世界の市民として、Global Citizen(世界市民または地球市民)を目指さなければならないと思う。

 しかし、「国民」という狭い概念を脱する前に、自分のこと、自分の国の強みを知らなければならないと思う。数年前にエジプトのある知識人にインタビューした際に「国際化とは何か」と尋ねたところ、口癖のように言っていた言葉が今も記憶に残っている。「真の国際化に達するには、『国内化』を極めることだ」と。裏返せば、国際化またはグローバル化というのは、国内化をマスターすることから始まるということなのである。

 かつて、東洋や日本文化にほれ込んだ岡倉天心は世界とつながろうと思ったとき、日本や東洋の伝統精神文化の奥義を解き尽くそうと『茶の本』を世界に送り出した。「お茶」という自国文化の発想とその精神を通して、世界をあらためて自分の社会と考えて、自分の国のことばかりという偏狭な考えをこえて広く世界、また人間社会全体に思いをいたすことこそ、天心が選んだグローバル化への道だった。日本人としての強みは何か、自分の強みは何か。自分の強みを発見し、それを世界と共有していく自分。それこそ、自分と違う世界や相手と付き合うことにつながる。

 Global Citizenになるって、とりあえずそんなところなのではないだろうか!

アブドーラ・アルモーメン
エジプト・カイロ生まれ。学習院大学文学部を卒業後、同大大学院人文科学研究科で日本語とアラビア語の対照言語学を研究。日本語日本文学博士。元サウジアラビア大使館文化部スーパーバイザー。著書に『地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人』など。

(記事提供:「東海大学新聞」2015年10月1日号)

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