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クローズアップ研究室

「哺乳類らしさ」はいつ、どのように作られるのか

2011年8月1日掲出

内閣府の総合科学技術会議が推進する「最先端・次世代研究開発支援プログラム」に採択された、健康科学部・石野知子教授の研究テーマ「哺乳(ほにゅう)類らしさを形作るメカニズム」。その研究概要をひもときながら、女性研究者としての道のりと研究にかける“思い”を聞きました。

哺乳類にまつわる謎を解き明かす

そもそも「哺乳類らしさ」とは何でしょうか。哺乳類と他の生物の違いから考えると、胎盤を通じて子宮内で子どもを育てる胎生や、母乳での子育てなどが挙げられます。分子生物学を教える石野知子教授は、「哺乳類の特徴にはもう一つ、子孫を残すためには精子と卵子の両性がそろわなければ受精できない、という点があります。この効率の悪い方法を残して進化してきたのには、それなりの理由があるのではないか」と考えます。これらは遺伝子にどのような情報として描かれているのでしょうか。

石野教授ら研究チームは、哺乳類にしか存在しない遺伝子を「サーファミリー遺伝子」と名付け、番号を割り振って分類。分類された遺伝子が子どもの個体発生と成長にどのような役割を果たすのかを調べています。「サーファミリー7」と名付けられた遺伝子は子宮での妊娠の成立と胎盤の形態を作るのではないか? 「サーファミリー3」は精巣で精子を作る役割を担っているのではないか? これはマウス実験を通しての予想です。サーファミリー7の役割を調べる方法は、この遺伝子を取り去ったマウスの胎児が子宮内で成長できない場合、原因となった部分を探ればサーファミリー7の機能が分かってきます。

さらに、哺乳類特有の新しい遺伝子の使い方―ゲノムインプリンティング(※)にも注目しています。哺乳類誕生のきっかけは、もともと持っていなかった外来DNAを取り込み、新たな遺伝子の使い方が生まれたためではないかと考えられています。もし外来DNAが生物に悪影響を及ぼすウイルスであれば淘汰されていくはずですが、淘汰されずに遺伝子として利用したのであれば、そこにはどういう意味があるのかという謎への挑戦です。哺乳類特有の遺伝子の情報を読み解きながら、その歴史をたどる。そこから「哺乳類らしさ」とは何かが見えてくるのです。

混沌の中から答えを見つける


「結婚、出産、子育てを経験できてよかっ
た。男性研究者と同じスピードでは走れ
ないけれど、視野が広がり、多くのものを
学べた。今は学会でも託児所が併設され
るなど、子育て中の研究者への支援も
充実しつつありますね」と石野教授

石野教授らの研究は、もともとは1980年代に欧米で始まった分子生物学の「エピジェネティクス」といわれる研究分野と大きくかかわっています。エピジェネティクスは、遺伝子だけでなく胚発生から体細胞クローン、ゲノムインプリンティングなど、多様な生物現象とかかわっています。将来的には遺伝子の使い方によって引き起こされる病気の解明や妊娠から出産までにかかわる病気の治療、iPS細胞などを用いる再生治療などに役立つと考えられています。

石野教授は大学、大学院時代に生物化学分野でタンパク質や培養細胞について学びました。研究者としてのスタートは、たまたま見たマウスの胎仔の写真でした。「とてもきれいで、生命の発生について深く知りたいと思いました」。一方で女性研究者としての将来に不安もありました。「私より上の世代の女性研究者たちは、研究か結婚か、二者択一の選択を迫られることも多かったと思います。ただでさえ理系の分野で女性は少ないですから、不安がなかったといえばうそになります」しかし大学院卒業後、英国の研究所へ留学した際に、女性研究者たちの生き生きとした姿を見て刺激を受けました。「結婚して子どもを産んでも、研究者としての将来をあきらめない。そのお手本がたくさんいました。しかも発生学の分野は女性の研究者が多かったのも心強かった。自分の体に生命を宿す女性だからこそ、興味を持つ人が多かったのでしょうか」。

帰国後は、研究と育児が両立できる勤務先を探すことが課題でした。研究設備や体制が整っていて、自分の生活ペースを保ちながら研究が続けられる伊勢原校舎に移って16年目になります。研究を続けられたのは家族や大学など周囲のサポートと、分子生物学への探究心があったからだといいます。「高校までの勉強は、決まった答えに効率よくたどり着くためのノウハウを身につける作業。大学以降の研究は、人から与えられた問題を解くのではなく、自らの疑問を解消し、アイデアを実践していく創造的な作業です。まだ誰も答えを見つけていない、混沌とした中から手探りで答えを見つけていかなければならない。断然こちらのほうが面白いですね」。

遺伝子の解明は、今後ますます発展していく研究なだけに大きな困難もつきまといます。「膨大な数の遺伝子情報を解き明かすのは大変な作業ですが、勘が外れて徒労に終わっても気にしない。前向きというか、楽観的な性格なんです。世の中は私の知らないことばかりなのだから、仮説が外れてもくよくよせずに疑問を一つずつ解消していけばいいじゃないかと。研究はコツコツと粘り強く対象を見つめ続ける体力と運も必要ですね(笑)」

KeyWordゲノムインプリンティング
片方の親から受け継いだ遺伝子のみが発現する哺乳類特有の現象。一般的に哺乳類は父親と母親からもらった一組のゲノム(遺伝子)を持っているが、遺伝子によってはどちらかしか働かないよう刷り込み(インプリンティング)されている。遺伝子刷り込みともいう。

(記事提供:「東海大学新聞」2011年4月1日号)

関連リンク:健康科学部

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