1. トップ
  2. 東海イズムトップ
  3. クローズアップ研究室

クローズアップ研究室

外国語辞典編さんの醍醐味

2011年9月15日掲出

 見出し語4万7000、ページ数1520、日本で初めてすべての単語に発音記号が付けられた『現代デンマーク語辞典』(大学書林)─。デンマーク語の専門家・文学部北欧学科の福井信子教授が編さんにかかわったこの辞典が、今年2月に発売されました。辞典編さんは、一見すると難しそうな世界。15年かけてこの大仕事に挑んだ福井教授に、言語の面白さを教えてもらおうと研究室を訪ねました。

刺激に満ちた職人仕事


デンマークの首都コペンハーゲンのメーンストリート。この国で生まれた成人教育の制度、国民高等学校は全世界に広がっており、東海大学の教育の源流にもなっている

 「辞典」と一口に言っても、子ども向けの国語辞典から専門家向けの法律辞典までさまざまな種類があります。ですが、基本的な編さん方法は同じ。編さん委員が取り上げる言葉(見出し語)を選び、その意味や用例の原稿案を執筆、案を持ち寄って修正していきます。「作業を一つひとつ積み重ねていく職人仕事」(福井教授)です。

 『現代デンマーク語辞典』は、デンマーク語を学ぶ初心者から中級者を対象に、1995年から編さんがスタート。福井教授の恩師でもある森田貞雄氏(早稲田大学名誉教授)の監修のもと、福井教授と家村睦夫氏(元桜花学園大学教授)、下宮忠雄氏(学習院大学名誉教授)が執筆にあたりました。

 デンマーク語のアルファベットは、AからZのあとにÆ Ø Å(小文字だったら æ ø å)を加えた29文字。福井教授はこのうちAからHまでの見出し語選定と原稿の執筆、全体の発音記号を担当しました。「辞典の編さんは研究者でもかかわれる機会の少ない仕事なので、とても幸運でした」


デンマーク語の歴史やデンマークのことわざ集なども収録されている。東海大学の付属図書館にも所蔵されているので、ぜひ手に取ってみてほしい

一単語も手を抜かず地道な作業に発見が

 執筆にあたっては、ドイツ語版や英語版のデンマーク語辞典を参考にしながら見出し語を選定。適切な日本語訳を考え、用例や発音記号を付けていきました。地道な作業ですが、福井教授は「刺激的で楽しかった」と言います。「どんな単語でも複数の辞書を引いて意味や用例を調べ、過不足なく適当な言葉を当てはめていく。その過程で新しい発見も多く、辞書ごとの違いも見えてきた。言語って面白いものだなと、あらためて実感しました」

言語を楽しむ極意は「ゆっくりつきあう」

 そんな福井教授に、言語の魅力を聞いてみました。「言語ごとに個性と共通点とがあり、絶えず変化していることですね。使用されている地域や国の歴史も色濃く反映しているんですよ」デンマーク語はもともとドイツ語に近いのですが、フランスが力を持っていた時代には、フランス語からの借用語などが増加。ちまたにアメリカ文化があふれるようになった近年では、英語の影響を色濃く受けています。日本でも年々英語から借用したカタカナ語や和製英語が増えているのが、それと同じ構図です。

 奥深い言語の世界に分け入ると、新しい発見が次々と待っています。ですが、本格的に外国語を学ぶのは敷居が高いと感じる人も多いのでは? そう思っていると、「そんなに肩ひじを張らなくても楽しめますよ」と一言。「最近では、ビジネスなどのために外国語を学ぶ風潮が強いけれど、そうでない接し方もある。例えば、学んでいる言語の辞典や原書をゆっくり読んでいくのもいいと思います。翻訳では面白さを感じない作品でも、原書で読むと作者が仕掛けた言葉遊びが見つかったり、落語のような軽妙な表現があったりと、たくさんの発見ができるはずです」。受験勉強とは違う言語の世界へ。まずは、絵本や童話から始めてはいかがでしょうか。

研究成果を積み重ね 言葉の魅力を伝えたい

 「デンマーク語を学ぶようになったきっかけは、大学生の時に偶然、北欧語の授業を見つけたからなんです」中学時代に受けた英語の授業で言葉のとりこになり、大学進学後はドイツ語を専攻していました。そんなある日、大学内の掲示で授業が開講されていることを知りました。

 「知らない言語だったので、面白そうだなと思って。その時は専門家になるなんて考えてもいませんでした」。その後2年半、デンマークのコペンハーゲン大学に留学。そこで生涯の師となる先生に出会い、研究者を志すようになりました。

 「実際に生活する中で、“もっと知りたい”という意欲が高まっていったのです。数々の出会いのおかげで今がある。ありがたいことです」現在は、言語だけでなく、デンマーク出身の作家アンデルセンを中心とする北欧の児童文学についても研究しています。そのため、デンマーク語などで書かれた作品やさまざまな研究書を読む毎日です。

 「自分が調べている事柄と直接には関係ないテーマの本でも、じっくり読むようにしています。少しずつでも読んでいくと、思わぬ発見があったりするものです」研究の成果を多くの人に知ってもらいたいと、地域の読書会や児童書の展示会の監修なども積極的に引き受けています。「必要としてくれる人がいて、自分の成果を生かす機会を下さる。それは本当にうれしいこと。これからも発見を積み重ね、言葉や児童文学の面白さを伝えていきたい」と語っています。

(記事提供:「東海大学新聞」2011年5月1日号)

関連リンク:文学部

クローズアップ研究室の一覧