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クローズアップ研究室

観光学の体系化を目指す

2011年11月16日掲出

 私たちの生活になじみ深い旅行や交通、レジャーをはじめ、まちづくりやランドスケープ(景観)の設計など、「観光学」を取り巻くフィールドは広範です。観光立国を掲げる日本の将来を担う人材の育成を目標に昨年4月に新設された観光学部では、どのような研究が行われているのでしょうか。「実学としての観光学の体系化」を目指す田中伸彦教授の研究室を訪ねました。

学問世界の近代五種?


研究所時代につくば市で行った子ども向けのヒノキ間伐体験。田中教授は森と触れ合う機会を増やす活動も展開しています。

 「観光学は、例えるならオリンピックの近代五種や陸上の十種競技のようなもので、幅広い教養が求められる実学です」。田中教授の専門は「レジャー学」と「自然環境(森林)計画学」。レジャー学の立場から、森林とのかかわりを中心に据えて「観光を通じた自然と人とのかかわり」についての研究に取り組みます。

 射撃、フェンシング、水泳、馬術、ランニングの全く異なる5競技での能力が求められる近代五種のように、「観光学には文系、理系の枠組みを超えた幅広い学問分野からのアプローチが求められます。観光は字のごとく“光を観せる”もの。文化、歴史、自然、経済まで、人々を魅了できる知識がなくては地域の魅力を発信することはできません」

森林や山村と人々の暮らしのあり方を研究


上村にある「下多古村有林」を視察する田中教授。樹齢280年から380年のスギやヒノキが林立しています

 本来の専門は森林学。「前任の森林総合研究所では、里山などをフィールドとして、自然と人とのかかわりについての研究を中心に取り組んでいました」と話す。東海大学に赴任する直前には、環境省の地球環境研究総合推進費の採択を受けたプロジェクトで「森林生態系サービスの観点から見た山菜・きのこ研究の現状と動向」や、「日本の里山地域における観光と森林生態系サービスとの関係」などの研究に取り組んできました。

 森林生態系サービスとは、森林生態系から人間が享受する利益(サービス)のことです。水源かん養や土砂災害の防止といった“基盤サービス”や、気候を緩和する“調整サービス”、食料や木材の“供給サービス”、レクリエーションや伝統文化などの“文化的サービス”に分けられます。

 「山菜・きのこ研究」では、里山に暮らす人々と自然とのかかわり合いの変遷を生態学者、環境経済学者らと学際的に探りました。「例えば南会津地域では、昔はゼンマイの供給サービスだけで山村集落の生計を支えることができ、豊かな食文化が育まれました。現在は山菜やきのこだけで地域を潤すまでにはいかなくなりましたが、新たにエコツーリズムなど、文化的サービスの観点を交えることで持続可能な里山管理や山村振興が行えると考えています」

総合的な視点から人間らしさを考える

 人と森林とのかかわりから派生して取り組み始めたのが、レジャー学を中心に据えた思索的研究です。「そもそも人はなぜレジャーを楽しむのでしょうか。歴史をたどり、時代ごとの為政者や宗教・経済と、余暇生活との関係を見ていけば、人間がより人間らしく生きるためにどのように過ごすべきなのかが分かります」

 例えば、欧米では中世までレジャーが人生の主目的で、仕事はレジャーの副次的位置づけでした。現在それが完全に逆転してしまっています」。無粋な時代だからこそ、人生を有意義に過ごすための基盤的学問であるレジャー学の再考が、現代観光学には欠かせないと田中教授は話します。「観光学はまだ発展途上の学問ですが、観光活動・産業に役立つ実学でなくてはならないと考えています。大学で行う基盤的な研究・教育を通して、多様な学部学科のある東海大だからこそ実現可能な学際的な実学体系を築くことが目標です」

森林研究から観光学へ 文理融合の研究活動を

 神奈川県茅ヶ崎市出身。湘南の海を目の前に育ったこともあり「少年時代から森より海のほうが好きかもしれない」と笑います。「里山や田畑は身近にありましたが、照葉樹林や松林は遊び場として面白くないと思っていました」。そんな田中教授が森林学の世界へと進むことになったのは、大学時代に受講した「環境ゼミ」がきっかけでした。

 「ゼミの一環で、『雑林の経済学』という本を書いた室田武先生(経済学者・現同志社大学教授)と岩手県山形村(現久慈市)で合宿したことで、森林学の道に進むことを決めました。山小屋作りや炭焼きなどを通して、森林とかかわること、森林の中で生きることの魅力を実感したことが大きかったです」。その後、原生林から都市の緑地、公園設計まで扱う森林風致計画学の研究室を卒業し、森林総合研究所、林野庁研究・保全課への勤務を経て、観光学部の開設と同時に東海大学へと赴任しました。

 現在は、自然とは何かを考える「ネイチャー・レクリエーション論」などの講義を担当しています。2年後、1期生たちが4年生となり、卒業論文をまとめる日を楽しみにしています。 「文系の学生たちがどのような研究に取り組みたいのか、理系出身の私の想像を超えた発想が出てくるのではないでしょうか。アイデアをアウフヘーベン(止揚)させていきたいです」

(記事提供:「東海大学新聞」2011年7月1日号)

関連リンク:観光学部

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