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クローズアップ研究室

ものづくりを支える材料科学

2011年12月15日掲出

 金属やセラミックス、高分子材料など、工業機器や製品類の材料に使われる物質を研究する材料科学。その手法を生かし、腱(けん)や靭帯(じんたい)を組織する膠原(こうげん)線維(コラーゲン)再生のメカニズムを解明する研究が、工学部材料科学科の葛巻徹准教授らによって進められています。学校法人東海大学総合研究機構「プロジェクト研究」に選ばれたこの研究と材料科学の魅力を聞きました。

ナノの視点で科学の未来を拓く


鏡で撮影した人工腱の写真。黒い点線で囲んだマウスのアキレス腱から、コラーゲン組織がしみ出している様子が見えます

 工業機器の材料・部品に使われる金属など、ものづくりの基礎となる素材を研究する学問として発達した材料科学。葛巻准教授はこれまで、透過型電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などを駆使したナノテクノロジーを生かして、さまざまな金属や炭素繊維などを原子のレベルで見つめてきました。

 例えば、約20年にわたって続けているカーボンナノチューブの研究です。この素材はアルミよりも軽く、同計量の鉄よりもはるかに強いため、半導体や燃料電池のほか、地球と宇宙空間とをつなぐ軌道(宇宙)エレベーターのワイヤーへの応用が期待されています。そして、人間の髪の毛の性質を人工的に再現した、新素材の開発研究も進行中です。「髪の毛は木材を運ぶ綱の材料に使われるなど、その丈夫さは昔から知られています。髪の毛の持つ強さの秘密に新しい繊維素材のヒントがあると考えています」

 

研究は、走査型電子顕微鏡(右)にナノ材料試験機(左)を取りつけて行われます

 観察する対象の幅広さだけでなく、ナノの世界の奥深さにも驚くことが多い。「素材は同じでもナノサイズになるとまったく違う性質を示すこともあります」。電子顕微鏡を使って物質を観察し、原子レベルの構造が分かれば物質の持つ特徴の起源が明らかになるといいます。さらに構造を観察しながら加熱や変形などの加工を行うことで、物質の特徴を探っていきます。

腱再生のメカニズムをミクロの目で調査

 今回採択された研究「膠原線維の応力誘起自己組織化現象の解明及び人工腱形成法の開発」は、人工腱を研究する医学部の鳥越甲順教授らと共同で、人の腱が再生するメカニズムの解明を目指します。まさに先端基礎医学とナノテクノロジーの融合です。


研究室で独自に開発した引張試験機。今回の研究ではこれを利用し、各種顕微鏡と組み合わせてシステム化して使います

 「アキレス腱や靭帯の治療は、医師の経験に頼る部分が大きかった。そこに、材料科学的な視点と定量的な研究を加えることで、新しい治療法の確立にもつながると期待しています」と葛巻准教授。断裂した腱が再生していく過程で分泌される物質に着目し、腱や靭帯を構成するコラーゲンの性質や特徴を調べます。「これまで扱ってきた金属などの無機物と違って、生体試料ならではの扱いの難しさがありますね」

 葛巻准教授は、今回の研究でナノ材料試験システムの開発にも着手しています。独自に開発した引張試験機にマウスの腱を装着しこれを電子顕微鏡内に挿入して使うことで、ナノレベルで観察しながら生体試料の引張・加工などの実験を行っていきます。今後はこの研究成果を評価し、成果をまとめた研究データを医学部へ還元、新たな治療器具や治療・リハビリ技術の開発に役立てられる予定です。

宇宙から医療まで多彩な分野に広がる

 宇宙エレベーターのワイヤーや髪の毛をヒントにした新素材から、先端的な基礎医学とナノテクノロジーを融合させた研究まで、材料科学の扱うテーマは広大です。しかし、ひとつの発見が科学の未来を拓く素材の開発につながっているとしたら、非常に心躍る分野であることには間違いないでしょう。

電子顕微鏡をのぞくと新しい発見が待っている

 「子どものころは機械の仕組みよりも、パーツの色や素材の違いに興味をもっていました」。 同じ大きさのねじでも磁石に付いたり、付かなかったりするのはなぜでしょう? 素朴な疑問が科学への興味につながり、材料科学の分野を目指すきっかけになりました。

 大学と大学院では金属とセラミックスの結合について学んだものの、就職先の研究室でたまたま恩師からフラーレンという炭素物質を紹介されました。以来、研究対象を大きく変更。このフラーレンの製造過程で生まれた新素材「カーボンナノチューブ」に注目して研究を重ねてきました。

 現在、葛巻准教授のもとには医療だけでなく繊維や食品など、新素材の開発を目指す研究機関・企業からの調査依頼が絶えません。葛巻准教授は材料科学を「普段とはちょっと違った視点で物質を観察することで、新しい性質や新時代を拓く新素材の発見につながります。そんな、面白さに満ちた分野」と話しています。

 「電子顕微鏡を通じて、難しい理論やさまざまな現象をすべて可視化するのが夢。電子顕微鏡で見えるナノの世界が、子どもにとって、科学への興味を持つきっかけになればうれしく思います。百聞は一見にしかず、ですね」

葛巻 徹准教授
1991年度に東海大学大学院工学研究科修了。東京大学生産技術研究所講師などを経て、2007年に東海大学へ赴任。2010年度より現職。

(記事提供:「東海大学新聞」2011年8月1日号)

関連リンク:東海大学産官学連携研究シーズ/毛髪構造化による高強度・超伸性繊維材料の開発
関連リンク:工学部

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