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クローズアップ研究室

多剤耐性菌を倒す薬を開発

2012年2月15日掲出

多剤耐性菌の脅威


緑膿菌を抗生剤だけ(左)及び抗生剤とともにペプチド(右)で処理した結果、併用により殺菌作用の増強が観察された。

 病気にかかったときやけがを負ったとき、何かと世話になる「薬」。風邪薬や胃腸薬、鎮痛剤などを常備している人も多いでしょう。多くの人を救う薬を、これまでとは違うアプローチで作り出そうと挑んでいるのが、医学部基礎医学系の良原栄策先生です。学校法人東海大学総合研究機構の「プロジェクト研究」に選ばれたこの研究についてお伺いしました。

 風邪や感染症などを引き起こすウイルスや細菌などの病原菌。普段から空気中に漂っていますが、その多くはうがいや手洗いをしていれば落とせますし、万一病気になっても薬で治すことができます。

 ところが、中には病気や大けがを負った人など体の弱った人にだけ悪さをする厄介者がいます。悪質なのが緑膿菌とアシネトバクターと呼ばれる細菌(グラム陰性菌と総称される)で、世界各国の病院や老人福祉施設で集団感染を引き起こし、死者を出す事故が相次いでいます。良原先生は、年々状況が悪くなっていると警鐘を鳴らします。

 「さまざまな治療薬への抵抗力を身につけて、薬が効かなくなってしまう多剤耐性化した緑膿菌などが相次いで見つかっています。有効な薬の開発も進んでおらず、多くの人が犠牲になるリスクが高まっています」

 細菌が原因の病気には、一般的に抗菌作用を持つ抗生物質が使われています。ところがこの治療法では、菌が細胞分裂を繰り返すうちに抗生物質への抵抗力を持ってしまいます。これが多剤耐性化をもたらし、病原菌と薬が常にイタチごっこを続ける結果につながっています。

細胞膜の形成を止める新しい薬を生み出す


Bam複合体の接合部の模式図。複合体を構成するタンパク質同士は、それぞれ固有の形をした「鍵」と「鍵穴」でつながっているため、ペプチドで「鍵穴」をふさいでしまえば、タンパク質が結合できなくなります。

 そこで良原先生は、細菌の細胞構造そのものを破壊する、新しいタイプの薬を開発しようと研究を進めています。緑膿菌などのグラム陰性菌は内膜の外にもう一つの膜(外膜)をもつという特徴をもつが、外膜の生合成に必須な役割を担うタンパク質がBAM複合体と呼ばれるものです。良原先生はこの複合体の機能を抑えることができれば菌にとって致死効果を与えることができると考え、複合体に対する阻害物質の開発に取り組みました。

 「Bam複合体は5つのタンパク質が結びついてできているのですが、それぞれの結合部はちょうど鍵と鍵穴のような関係になっています。そこで、鍵穴の一部と同じアミノ酸配列を持つ物質(ペプチド)を作成してこの鍵穴をふさぐようにしてみたのです。これを一般的に使われている抗生物質とともに緑膿菌に与えたところ、多剤耐性菌を死滅させることができました」。鍵穴に相当するタンパク質の結合部は固有のアミノ酸配列を持っているため、ターゲットの病原菌には効果があるものの、それ以外の細胞には悪影響を与えず副作用の心配が少ないのも特徴です。

多くの患者のために改良の日々は続く

 その後の実験で、この方法を使えば抗生物質の濃さを従来の4分の1程度にしても効き目があることを発見。マウスを使った動物実験で効果を確認するなどしています。また、ペプチドを改良することによって、それだけで多剤耐性緑膿菌と多剤耐性アシネトバクターを抗菌する作用を持つペプチドも発明することができました。

 「多剤耐性菌に有効に作用する次世代型のペプチドを世界で最初に開発することができましたが、治療に応用するにはまだまだ改良を重ねていく必要があるとも思っています。この研究成果が薬として世に出て多くの人々を救う日まで、まだまだ研究を続けていきますよ」

スリルに満ちた実験の日々 楽しむ心が研究の原動力

 「子どものころは数学が好きでした。パズルを解いていくように、試行錯誤をしながら答えを導いていくところに魅力を感じていたんです」

 数学好きの少年が理学に進んだのは、自分の力で新しいものを作り出したいと思ったからです。大学では、理学部で細胞を形作るタンパク質の構造や機能を研究。当初は薬とはかかわりのない分野でしたが、細胞が異物を取り除くために持っている排出ポンプに着目したのがきっかけで、多剤耐性菌の治療薬の開発に取り組むようになりました。

 研究は実験の繰り返し。新しい発想を探る日々です。「結果を想像しながら自分の手を動かしていく点が実験の楽しさ。失敗もありますが、科学はそんな簡単なものじゃない。それに、初めから答えが分かっているものを解いていくだけでは面白くないでしょう」。実験はいつもスリルに満ちているとも語ります。「実験結果が出るまでに1日や2日かかることもあります。その間は、『今どうなっているか?』とドキドキしながら様子を見守っています。時には眠れないこともあるんですよ」

 苦しいときに支えとなるのは、「どこかに答えがある」との期待と実験の楽しさです。「これからも一歩一歩積み重ねていき、世の中の役に立つものを生み出したい」と力強く語っています。

 よしはら・えいさく 1980年大阪大学大学院理学研究科生物化学専攻修了。90年東海大学に着任、93年から現職。主な著書に『生物学と医学をつなぐ分子細胞生物学』などがあります。

(記事提供:「東海大学新聞」2011年10月1日号)

関連リンク:医学部

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