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クローズアップ研究室

制振装置の軽量・小型化に挑む

2012年3月15日掲出

「耐える」から「制御する」時代へ


島﨑教授が開発している制振装置の実験模型。円弧状のレールの上を鉄板と磁石が振り子のように動き、重りに平行して奥に銅板が設置されています。磁石で鉄板の揺れを制御する仕組みです。

 2011年3月の東日本大震災をうけ、建物を地震から守る技術にあらためて注目が高まっています。耐震、免震、制振などさまざまな工法がありますが、どう違うのでしょうか。今年度、科学技術振興機構(JST)の支援事業の採択を受け、新たな制振装置の研究開発を進めている、工学部土木工学科の島﨑洋治教授の研究室を訪ねました。

 恥ずかしながら記者は「耐震」と「免震」の構造の違いはおろか、「制振構造」という言葉も知らなかったため、まずは、これらの違いから伺いました。「壁や柱など建物の構造自体を強化し、建物全体で振動エネルギーを受け止めるのが耐震です。建物の外側に筋かいなどを入れるのも耐震工事の一つですね。それに対し、地面と建物の間にゴムやバネなど伸縮性のある部材を使った装置を設置して、振動エネルギーを吸収し、建物に振動が伝わらないようにするのが免震構造です」

 耐震補強の工事は低コストで行えるため普及していますが、想定された規模以上の揺れには弱いです。一方、免震構造は地面と建物が離れているので、大きな揺れにも耐えられます。中高層マンションや商業ビルなどの高層・大規模建築物に多く使われていますが、建造物を建てるときにしか設置できず、費用もかさむのが弱点です。

柔軟性のある制振の構造

 そこで、耐震と免震のメリットを融合させた技術として開発されたのが「制振構造」です。建物内部や側面に装置を設置し、建物の振動を制御して軽減します。揺れを制御する技術そのものは洗濯機や車、電気シェーバーなどの振動防止にも使われていて、これを建造物に応用したものです。耐震構造の特徴が踏ん張って耐える「堅牢さ」とすると、制振構造は「柔軟性」といえます。

 島﨑教授は、振り子の原理を応用した新しい制振装置「同調クレイドル(ゆりかご)型制振装置(TCMD)」の開発に取り組んでいます。「揺れが発生すると、磁石を取りつけた円柱形の重りが、円弧状のレール上を揺れの向きと逆方向に動いて建物の揺れを小さくします。さらにレールに平行して設置された銅板と磁石の摩擦で、揺れのエネルギーを吸収する仕組みになっています。この装置を建物上層部の床下に必要な数だけ設置して、建物全体を守るのです」

 従来の制振装置は、バネや水などを使った装置を建物の屋上に設置するものが多かったのですが、いずれもサイズが大きく、重量の制限がある建物や狭い敷地に建てられた、ペンシルビルと呼ばれる中層建築物には向きませんでした。

広がる用途と高まる期待

 一方、TCMDは軽量かつ小型のため、ペンシルビルにも設置でき、エレベータでの搬入も可能です。「床下に設置するので空間を有効活用でき、取りつけや保守点検も容易です。ビルの補強工事も不要で、コスト面も大幅に削減できます」

 TCMDの研究を始めたきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災でした。「あの揺れを効果的に吸収できる構造があれば」と、震災の2年後から本格的に研究を始めました。今年度、科学技術振興機構(JST)の支援事業「研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム」に採択され、実用化までもうすぐという段階に来ています。「すでに企業や海外の研究機関から問い合わせが来ています。定年退職まであと数年。それまでに実用化のめどをつけたいですね」

ハングリー精神をたたき込まれた留学時代

 少しのことを聞いてすべてを理解する能力の高い人のことを俗に「一を聞いて十を知る」と言いますが、そういう秀才を見るたびに「自分は勉強が得意ではない。とてもこういう人たちとは競争できない」と感じてきました。

 大学生になっても確固とした将来像は見えず、卒業後は研究室に残ることになり、助手としての毎日を送っていました。 その後、研究者を目指すのなら博士号を取らなければ、と一念発起してアメリカの大学院へ留学を決めましたが、TOEFLのスコアは及第点ギリギリ。「渡米してからが本当の勉強でした。英語が苦手とか、自信がないなんていっている場合じゃない(笑)。寝る間も惜しんで何らかの結果を出さなければ評価の対象にすらなれず、退学しか道は残されていませんでした。がけっぷちでした」と当時を振り返ります。

 留学中の日々を支えたのは「君ならできる」、と恩師が研究目標を示されながら力強く応援してくれたからです。切迫した状況の中、明確な目標ができたことで、がむしゃらに突き進めました。そのときにはもう、他人と自分を比較する余裕すらありませんでした。「秀才でも器用でもなかったからこそ、野蛮なくらいのハングリー精神で乗り切るしかなかったのです。でも、このときの経験があるから今につながっているのかもしれません」

しまざき・ようじ 1948年神奈川県生まれ。東海大学工学部卒業。コロラド州立大学大学院博士課程修了。工学博士。専門は有限要素法による解析手法の開発、個体および構造力学

(記事提供:「東海大学新聞」2011年11月1日号、構成:東海大学新聞 志岐吟子)

関連リンク:工学部

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