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クローズアップ研究室

げっ歯類眼球運動の新規計測法を開発 目の動きから脳の謎に迫る

2013年2月15日掲出

 手や足を動かすとき、私たちの脳の中では何が起きているのか―マウスやラットの眼球運動を用いて、運動制御と学習・記憶メカニズムの解明に向けた研究を続けている創造科学技術研究機構の加藤明特任准教授。この研究をより正確かつスムーズに進めるために開発した、げっ歯類眼球運動の新規計測法とその可能性について聞きました。


 そもそも、脳の謎に迫るためになぜ目の動きを調べるのでしょうか? それは、眼球が6本の筋肉だけで自由自在に動くという構造のシンプルさにあります。「脳の働きはとても複雑なため、他の運動機能と比べてシンプルな眼球運動から調べ始めるのがいいと考えました」

 マウスやラットといったげっ歯類の眼球運動を計測するには、いくつかの計測法があります。大学院在学中に研究を始めた当初、加藤准教授が使っていたのが、目の動きを撮影・記録するビデオカメラ法。ビデオカメラが1台あれば簡単に計測できますが、まばたきなどの影響を受けやすいといった問題点がありました。その後、アメリカで研究をしていた際に用いたのがEye Coil法です。

 これは、眼球の上にコイルを埋め込んだマウスやラットを磁場の中に置き、そこで生じる誘導電流を測るものです。この手法では比較的正確な計測値が得られますが、磁場をつくる装置が大がかりなうえに、高度な医療処置技術が求められます。そこで「もっといい計測法を!」と加藤准教授が考え出したのが、ヒトで用いられている計測法を応用した「EOG(electrooculography/眼電位図)法」なのです。

居眠り運転防止やゲームへの応用も

 これは、眼球の両側に電極をつけて角膜側と網膜側の電位差を計測するというものです。眼球は角膜に+(プラス)、網膜に-(マイナス)の電荷を有しているため、眼球が少しでも動けばどちらかに電荷が偏ることを利用、その電位差を計測することで目の動きを調べます。マウスやラットの皮下に電極を埋め込んでしまえば、動きを制限することなく眼球運動を測定できるのが特徴です。

 ヒトの場合はすでに医療現場などで活用されていますが、これまでマウスやラットに使われてこなかったのは、その眼球サイズに問題があったからです。マウスの眼球は約3ミリ、ラットは約6ミリ。電位差は眼球が大きいほど検出しやすくなるため、実験装置の精度を上げなければ検出そのものができなくなるのです。そこで加藤准教授は、この新規計測法によるデータの蓄積と解析とともに、その精度を上げることを目的とした実験装置の開発も手がけています。「いずれは、人間の眼球運動を手軽に計測できる携帯用簡易計測器を作りたい」と抱負を語ります。

 メガネ型の手軽な計測装置ができれば、眼球運動と密接な関係がある居眠りや車酔い、てんかん発作などの予兆を事前に察知して、事故防止に役立たせることができます。さらに発想を転換させれば、ゲームに活用することも……。マウスやラットの眼球運動の新規計測法と、それを活用した眼球運動の解明が、私たちの生活を豊かにする日も近いかもしれません。

focus

幅広い視点で物事を見れば思いもかけない発見がある

 頭の中で「こうやって動かそう」と思ったら、そのとおりに手が動く。どうしてだろう―― 中学生のときに感じた疑問を、現在の研究テーマに据えている加藤准教授。「ただ単純に知りたいだけ。だって、誰も知らないことを自分だけが知っていたら面白いでしょう」と笑う。そうはいっても、研究を続けるためには一般の人にもわかりやすい"動機づけ"が必要です。自分の出した研究結果が、社会に役立つものになると位置づけることが重要だと力説します。

 数学を専門に学びたいと大学に入ったが、実際に専攻したのは化学。植物の酵素を研究していました。大学院に進む際、脳・神経学を専門にする研究室が新しく立ち上がることを耳にして、昔から不思議に思っていた脳のメカニズムを探るチャンスだと一念発起。自分から研究室に問い合わせ、ただ一人の1期生に。そしてアメリカへ……。「意識をして取り組んだわけではありませんが、結果的には多くの分野を学びました。一見、バラバラに思えるかもしれませんが、そこで培ったネットワークが今になって生きています」

 選択肢が1つしかないよりも、選択肢が5つあったほうが成功の確率は高くなるはず。「"これしかやってこなかった"という人は、選択肢が少ない。どんなことであれ、視野を広げて多様な分野のネットワークをつくることを、学生の皆さんには心がけてほしいですね」

かとう・あきら 1970年山形県生まれ。京都大学理学部卒。同大学院理学研究科修了(理学博士)。スタンフォード大学リサーチアソシエイトなどを経て、2011年より現職。

 (記事提供:「東海大学新聞」2012年11月1日号)

 関連リンク:創造科学技術研究機構

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