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クローズアップ研究室

タンパク質の謎を解明し人工的に酵素を生み出す

2013年4月15日掲出

 人の筋肉や血液、皮膚といった組織の多くは、複数のアミノ酸からなるタンパク質と、鉄分やカルシウムなどの分子が複雑に組み合わさった化合物でできています。今回は、アミ酸の一種セレノシステインを含むタンパク質の構造や働きを解明し、人工的に酵素などを作る技術の研究に取り組んでいる理学部化学科の岩岡道夫教授を訪ねました。


日本学術振興会研究員の荒井堅太博士(大学院総合理工学研究科卒)と共同研究で機能の開発に成功したセレン化合物「DHSOX」の立体模型。この研究は、ドイツの科学専門誌『CHEMISTRY - A EUROPEAN JOURNAL』の優秀論文賞に選ばれ、2011年第2号の表紙を飾った

 セレノシステインは、原生生物から人類まで多くの生物の体内にある物質の一つ。甲状腺で生み出される成長ホルモンの働きを助ける酵素といった、さまざまなタンパク質に含まれているほか、脂質(細胞膜)の酸化を防止するなど重要な役割を果たしています。 その一方で、その存在は長く知られておらず、重要な役割を持つことがわかったのは20年ほど前のことです。

 「当時、アミノ酸は20種類しかないといわれていたため、“21番目のアミノ酸”として大きな注目を集めました。その後研究が進み、現在では世界中の研究者が性質の分析やセレノシステインを使った新規化合物の研究に取り組んでいます」

構造や機能を分析、医療などへの応用も

 岩岡教授はセレノシステインの生成過程や性質を解明し、このアミノ酸を含むタンパク質について研究。

 その構造や機能を実験とコンピューターシミュレーションを駆使して、いまだ解明されていない酵素の構造や働きを明らかにするとともに、タンパク質を人工的に生成する技術の研究に取り組んでいます。


 シミュレーションソフトの開発では、理学部基礎教育研究室の峯崎俊哉准教授とも協力して「SA A P(Single Amino Acid Potential 単一アミノ酸ポテンシャル力場)プロジェクト」を展開しています。タンパク質立体構造の生成過程やその構造をパソコンを使って高速かつ高精度に予測し、タンパク質を個々のアミノ酸ごとに解析できる世界初のシステムを開発。現在は精度の向上を目指した研究が進んでいます。

 「セレノシステインなどのアミノ酸はもちろん、タンパク質にはまだまだわからないことがたくさんあります。実験とシミュレーションを駆使して研究の効率を上げ、新しい酵素が人工的に作れるようになれば、医療をはじめとする幅広い分野に応用できると期待しています」

有機合成の拠点を目指すプロジェクトもスタート

 さらに今年度からは、工学部と理学部、開発工学部の教員7人と、イギリス・カーディフ大学の研究者からなる「元素機能プロジェクト」をスタート。今年度の東海大学総合研究機構中型プロジェクトにも採択されました。

 このプロジェクトでは、生物が元素を細胞内に取り込む仕組みなどを参考に、細胞膜の中にある膜タンパク質に似た機能を持つ人工膜の創成や、糖尿病の治療などに使われているインスリンの新たな合成技術を開発。さまざまな機能性物質の生成などを目指しています。

 「プロジェクトを通して学内外に協力の輪を広げ、将来的にはタンパク質をはじめとする機能性有機化合物の国際的な教育・研究の拠点に成長させていきたい」

focus

好きこそものの上手なれ 知識の背景に目を向けよう

 研究していることが楽しいから--。

 今年90歳になるアメリカ・コーネル大学の恩師に、なぜ研究を続けるのかを聞いたときの答えが忘れられない。「面白さを見つけられるところに、1つのことを長く続ける秘訣があるのかもしれませんね」

現在の研究分野に飛び込んだのは、大学院生のとき。タンパク質に関する研究員としてコーネル大学に留学できるチャンスがあり、応募したのがきっかけでした。

「それまでは分野の違う有機化合物を研究しており、同じ分野の国内の研究者に後れをとってしまう不安もありました。でも生物分野に興味を持っていたことも手伝って、海外の最先端の現場に行けるなら、思いきってチャレンジしようと決めたんです」

自身の経験から感じるのは、興味を持った分野に深く向き合うことの大切さだ。そのためには、自分にとって魅力的な学問を見つけることが第一歩になるという。

「社会人になるまでに最低でも1つは、得意な専門分野を見つけてほしい。教科書に載っていることをただ覚えるのではなく、その背景や理論にも目を向けてください。そこには、思わぬ発見や面白さが隠れていると思いますよ」

いわおか・みちお 1964年北海道生まれ。長野県育ち。東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。博士(理学)。アメリカ・コーネル大学の研究員などを経て2003年東海大学に着任。専門は有機化学、タンパク質科学。主な著書に『化学の基礎77講』などがある。

 (記事提供:「東海大学新聞」2013年1月1日号)

 関連リンク:理学部化学科

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