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クローズアップ研究室

放送音質の改善を目指す 音声加工技術で聞き取りやすい声を作り出す

2013年5月15日掲出

体育館での朝礼中、遠くで話している校長先生の声が聞き取りにくかった─そんな経験をした人も多いのでは? では、どうすればホールなどの広い場所で正しく情報を伝えることができるのでしょうか。コンピューターによる音声加工技術の開発に取り組んでいる、情報通信学部の程島奈緒講師を訪ねました。

 駅のホームや商業施設などのアナウンスは、なぜ聞き取りにくいのでしょう?程島講師は、「最大の原因は残響にある」と話します。「コンクリートやガラスなどの硬い物質で囲まれた空間では、人の声は直接相手の耳に入るだけでなく、壁や床に反響して耳に届きます。それが残響です。空間の広さに応じて大きくなり、声を聞き取りにくくする性質を持っているんです」

 現在、残響を抑えるには、建物の天井や壁に吸音材を張るか、音質のよいスピーカーを設置するなど、設備に頼っている面があります。ですが、いずれもコストが高いことが欠点でした。そこで程島講師は、声そのものに着目。声の波長をコンピューターで加工し、聞き取りやすくする技術の開発に取り組んできました。

アナウンス音を加工しさまざまな空間に対応

 研究では、さまざまな環境で人の声を収録。母音と子音の波長を加工した後、体育館など特定の空間を想定してシミュレーションします。さらに、幅広い年代の被験者に音声を聞いてもらい、その正答率を分析することで、どのように加工すれば聞き取りやすくなるのかを調べています。

 2001年には、母音などの波長の中で振幅や周波数が安定している部分(定常部という)を一定の割合で削ると、声が聞こえやすくなることを世界で初めて発見(上智大学理工学部にて連名で研究)。コンピューターによる音声加工の新しい可能性を開く技術として、大きな注目を集めています。「たとえば『き(Ki)』という音を出す際、人は最初に子音のKを出した後、母音iを続けて発音している。この場合、Kとiの真ん中あたりにある母音の定常部の振幅を絞ると、残響が多い空間でも声が聞きやすくなります」


放送を聞こえやすくする技術には、建物の防音を中心にした「建築音響」や、スピーカーの性能を上げる「電気音響」など幅広い分野がかかわっている。程島講師は最も新しい分野の一つである「信号処理技術」を利用した研究を行っている

 高齢者などを対象に行った実験では、現段階でも加工前後で10%ほど正答率が上がっています。「さらに研究成果を蓄積していけば、空港やデパート、ホールなど幅広い空間に対応できる技術を確立し、汎用性の高い音声加工用の機器を作り出すことも可能になります。従来の方法よりもずっと安価に、放送音質を改善できると期待しています」

大規模災害に備えて緊急放送用の技術も

 これと並行して進めているのが、ロンバード効果と呼ばれる現象を利用した音声収録技術の研究です。人は騒がしい空間の中で会話をするとき、通常よりも声のトーンを上げて話すなど、無意識のうちに声の出し方を工夫しています。それがロンバード効果です。

 程島講師はこれを応用し、放送室にいる話し手が、人が密集した場所の騒音をヘッドホンで聞いた状態で話すと、より聞き取りやすい放送ができることを科学的に解明。実験を重ね、より効果的な手法を探っています。

 「二つの研究を組み合わせれば、高齢者など耳が不自由な人にも正しい情報を伝えやすくなります。地震発生時の駅構内や大型店舗で火災が起きた際など、人が大勢いる場所での避難誘導もより正確にできるようになります。緊急時に少しでも多くの人を助けられるよう、一日も早く実用化の道を開いていきたい」と話しています。

focus

失敗しても恥をかくだけ 自分なりに考えて行動して

 「最近、失敗を恐れて自分から行動しない学生が増えているように思うんです」 たとえば授業でコンピューターのプログラミングを教えると、動作テストをする前に「これで合ってますか?」と聞かれることが多くなったという。「何かをやって失敗をしても、恥をかくだけで経験にもなる。やらないよりは、やるほうがずっといいと思うんです」小さいころから、面白そうなことがあれば、思い悩む前に試してみる性格だった。「まずはやってみて、好き嫌いを見極める。好きなら続けるし、いやだったら無理せずやめる。両親も、そんな私を全面的に応援してくれました」

 高校時代は友人とバンドを組んで、ポップスやロックに熱中しました。音楽関係の仕事にも憧れましたが、より幅広く音響について勉強したいと、大学は理工学部を選択。在学中にはアーチェリーにも挑戦しました。

 卒業研究では、「大好きな音で社会の役に立てる」ことから音響学のゼミを選択。「試行錯誤を続け、新しい謎に挑んでいるうちに、研究者の道を歩むようになっていました」

 研究室の学生には、自分なりに考えながら行動するよう指導しています。 「社会人になれば、自分で考え、判断しなければならないことが多くなります。だからこそ在学中にその習慣を身につけてもらいたい。もちろん私も、新しいことに挑み続けますよ」

ほどしま・なお 1979年東京都生まれ。上智大学大学院理工学研究科電気・電子工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。Norwegian University of Science and Technology客員研究員などを経て、2010年に東海大学に着任。専門は音響学。

Key Word 『人の声が聞こえる仕組み』
人の声は、音波という振動になって空気中を伝わります。耳に入った声は、内耳にある内有毛細胞と呼ばれる「毛」で感知され、脳内で過去に得た知識や記憶をもとに言葉として理解されています。歳をとると「毛」が抜け落ち、脳神経の機能が衰えることで、うるさい場所での話や早口の会話が聞きづらくなります。

 (記事提供:「東海大学新聞」2013年2月1日号)

 関連リンク:情報通信学部情報メディア学科

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