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クローズアップ研究室

「楽しい」「面白い」を形にエンターテインメントの視点でデザインの可能性を広げる

2013年10月15日掲出

 十分な機能性を持ちながらも実用一辺倒ではなく、思わずクスッと笑ってしまうようなユニークさで、私たちの暮らしに潤いや楽しみを与えてくれる―。閉塞感の漂う時代の空気と密接にかかわっているといわれる「エンターテインメントデザイン」とは何なのか? 教養学部の池村明生教授に聞きました。

 

エンターテインメントデザインコースの実習成果を発表する学内展覧会「Surprise BOX」(7月16日から20日まで、湘南校舎で開催)の会場風景。「〝びっくりする〟ということは、常識や普通と感じる状態があるから。まずは当たり前とは何かを考えることが大事」と池村教授

 「エンターテインメントとデザインという2つの言葉は、それぞれ広く知られています。でも、〝エンターテインメントデザイン〞という言葉が一般的に使われだしたのは、ここ最近のこと。デザインの概念としては、比較的新しいものなのです」と語る池村教授。

エンターテインメントデザインとは、グラフィック、プロダクト、インテリアといった従来のデザインカテゴリーのすべてを貫く縦軸のような存在。幅広い表現方法を駆使し、癒やしや潤いを欲する人々の心に訴えかけるデザイン手法を指します。
戦後の日本におけるデザインとは、産業振興を支える要素の一つであり、必要とされていたのは「美しい」「使いやすさ」「安い」といった価値観。しかし、経済成長の時代から閉塞感が漂う時代に変化していく過程で、さまざまなひずみが生まれ、それを埋めるために人々は心の癒やしを欲するようになっていきます。「その結果、デザインにも『楽しい』『面白い』『癒やされる』といった要素が求められるようになっていきました。1990年代後半から、エンターテインメントデザインが生活雑貨を中心に、世の中に浸透するようになっていったのです」

農体験エリア「ひらつか花アグリ」のマスコットキャラクター“あぐりちゃん”。平塚市商業観光課の依頼を受け、学生がデザインした。このほかにも、同市の観光拠点をアピールするための多彩な活動が進められている

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 教養学部では、2005年のカリキュラム改訂でデザイン学課程に5つの専門コースを新設。その一つとして、エンターテインメントデザインコースが誕生しました。池村教授は07年から同コースの教育に携わっていますが、「東海大学は〝エンターテインメントデザイン〞という言葉を使い始めた、先駆けの存在なのかもしれませんね」と笑います。

 学生たちを教えるにあたって池村教授が重視しているのは、生活者の視点に立つ〝一人称のデザインをする〞ということ。自分が面白くなければ、他人を面白がらせることはできません。自分自身の作品を見たときに、「これは面白い」と思えるかどうかを考えることが大事だといいます。

 エンターテインメントデザインの対象となるのは、モノ、コト、スペースなど広範囲に及びます。現在、池村教授が学生とともに積極的にかかわっているのが、地域ブランドのデザイン化です。教養学部独自の教育プログラム「SOHUMプログラム」の一環で、湘南地域ブランドの創造をテーマにした活動を展開。農産物の地産地消推進や観光地をアピールするキャラクターの開発、イベントのサポートなどを、市の担当者や地元住民らと連携して取り組んでいます。

 「地域ブランドのデザイン化にあたっての私の役割は、プロジェクト全体を見渡すプロデューサー。実際に考え、形にして提案するのは学生の役割です。学生のアイデアが市の担当者らの心に響いたとき、その人の中で眠っていた何かが呼び起こされ、相乗効果となってより良いものを生み出すことができる。一人ひとりが持っている〝思い〞を形として表現できる―それこそがデザインの力であり、可能性なのではないでしょうか」

平塚産農産物の地産地消を推奨する「“ひらベジ”プロジェクト」。平塚市農水産課の依頼を受けて取り組んでいるもので、“ベジ太”のキャラクターデザイン、関連イベントのサポートなどを担当している
focus
真面目でも不真面目でもなく“非真面目”を目指してほしい

 「大学時代は液体を使って泡が動く作品、卒業後は石膏(せっこう)や真鍮(しんちゅう)板を使ったミックス・ド・メディアと呼ばれるオブジェクト作品を作り続けていたという池村教授。「ジャンルにこだわらず、見た人が楽しくなるようなものばかり作っていました。それが、現在の専門であるエンターテインメントデザインに結びついたのだと思います」
 
 高校時代は美術部に所属。美術大学に進学したが、そこで気づいたのが、周囲には自分よりもっと作品を創造することに長けている人がいる、ということ。「それで、『自分の適性はどこにあるのだろう』『級友たちができないことを探そう』と必死になって考えました」
 
 大学院修了後は、展覧会やアートイベントのプロモーション会社に就職。そのかたわら非常勤講師を務め、やがて大学教授に。「いい意味で人を裏切るのが好きなんです」と軽やかに笑う。「堅苦しく考えると解決しない問題が、世の中にはたくさんあります。真面目でも不真面目でもなく、非真面目を目指す。若者にはそんな感覚を大事にしてほしいですね」

いけむら・あきお 1960年神奈川県生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。同大学院美術研究科デザイン専攻修了。専門はエンターテインメントデザイン、アートプロデュース、デザインコンサルテーション。著書に『空間づくりにアートを活かす』がある。

 (記事提供:「東海大学新聞」2013年8月1日号)

 関連リンク:教養学部芸術学科デザイン学課程

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