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クローズアップ研究室

日本の風土に合った手法を研究

2013年11月15日掲出

 地震や豪雨などの自然災害が多い日本。安全で長持ちする家屋やビル、道路などの構造物を建てるときには、地盤工学の知識や技術が欠かせません。人々がより安全に生活するために、新しい調査の手法を研究している工学部土木工学科の杉山太宏教授の研究室を訪ねました。

神奈川県内の道路では、以前に道路を平らにする補修が行われたが交通荷重と長期沈下の影響で道路が波打ってしまっている(撮影=2013年8月)

 地盤は地表面から地下深くまで、砂や粘土などさまざまな種類の土が何層にも積み重なってできています。その種類や重なり方によって場所ごとに異なる性質を持つといいます。 

 「柔らかい地盤の上に構造物を造ると、その重みで地盤が沈んでしまう。こうした地盤の上にある道路や家もその影響を強く受けます。特に日本の平野部は水を多く含む軟弱地盤が多いのが特徴。こうした場所では、道路や家屋が建った後もずっと沈下が続いてしまう傾向があるのです」と杉山教授は語ります。 

   その被害を最小限に食い止めるため、構造物を造るときには、工事前に地盤を調査することが法律で決められています。実際にはボーリングなどで土を採取し、その中に含まれる水の量や土の種類を分析。そうして得たデータをもとに「テルツァーギの圧密理論」=キーワード参照=などを使って、構造物を造ったときの沈下量を計算して予測します。さらに、その結果をもとに沈下量を抑える工事などを施し、構造物を使い始める際には地盤が平らになるように対策しているのです。

多様なデータをもとに現状の手法を改善する

 ところがこれまで使われてきた方法では、道路や家屋を使い始めてからも継続する長期沈下現象を計算できないという問題がありました。

 「テルツァーギの理論は、地盤沈下は一定の期間で停止することになっているんです。ところが、実際には供用開始から50年以上経った高速道路の一部で今も沈下が続いている。現行の方法では予測できないことが起きているのです。建設当時こうした事態は想定されておらず、補修に多くの費用がかかっているのが現実」と杉山教授。工事後に地盤を改良する技術もありますが、費用がかかるなど課題が多いといいます。

   そこで杉山教授は、国内に多い粘土地盤を主な対象に、事前調査で長期沈下も含んだ全体の沈下量を予測できるシミュレーション手法を研究。今年2月には、台湾の中華民国大地工程学会のベスト論文賞も受賞しました。研究では、国内各地の沈下のデータやさまざまな場所の土を使った実験結果を分析。テルツァーギの理論をもとにしつつ、現在一般的に用いられている調査方法だけを使って、すべての沈下量を予測する手法を開発しようと取り組んでいます。

シンプルなモデルでアジア諸国も助けたい

 「計算モデルをより多くの人に利用してもらうためには、すでにある手法を応用したシンプルな方法にする必要がある」と杉山教授。現在は基礎となる計算式を実際の地盤の設計に使えるよう改良を重ねている段階ですが、将来的には完成した計算モデルを組み込んだソフトウエアの開発を目指しています。

 「インフラ整備が盛んに行われている東南アジア諸国には、軟弱な粘土地盤の上に人々が住んでいる地域が数多くある。将来は、国内だけでなくこうした地域のインフラ整備や宅地の造成などにも生かしてもらえれば」と語っています。

focus
今やれることを大切にすれば未来はおのずと開ける

 「橋やトンネルなどの大きなものを、たくさんの人が協力して造る。それに憧れて東海大学の土木工学科に進んだんです」。実家が建設業を営んでいたこともあって、幼いころ工事現場を見に行く機会もありました。地味な仕事ですが、チームワークで道路や橋が造られていく様子に、「かっこいいと思った」と話します。大学卒業後は民間企業に勤務。次から次へとやってくる膨大な仕事に没頭する毎日を送りました。「若いうちは多少無理しても大丈夫。今やれることをやっていけば自然と次の道が見えてくるだろうと、がむしゃらにやっていました」
 自身を振り返って思うのは、「自分の可能性に制限をかけないほうがいい」ということです。たとえば10代を一生懸命頑張れば、20代にできることが見えてきます。将来は、今の成績や能力で決まるものではないと語ります。
 「できない理由を考えるのではなく、今目の前にあるできることや、やるべきことに一生懸命向き合っていけば、おのずと道は開けてくる。私だって学生時代、今の自分は全く想像できませんでした。高い目標を掲げることもいいけれど、一歩一歩、目の前にあることと真摯に向き合うことも大切にしてほしい」

すぎやま・もとひろ 1964年愛知県生まれ。東海大学工学部卒業。「株式会社オオバ」勤務後、94年に山口大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。同年から東海大学勤務。

Key Word 『テルツァーギの圧密理論』
地盤工学の父カール・テルツァーギが提唱した理論。飽和した粘土に荷重が加わると粘土に含まれる水分の圧力(間隙水圧)がじわじわと低くなり、これがなくなれば地盤沈下が止まると仮定。その所用時間と粘土の沈下量を算出する。沈下予測の基本式として各国で利用されている。

 (記事提供:「東海大学新聞」2013年9月1日号)

 関連リンク:工学部土木工学科

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