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クローズアップ研究室

「読みやすさ」の謎に迫る 電子書籍と紙媒体の違いを視線の動きから分析する

2014年3月17日掲出

 電子書籍は持ち運びが便利だけれど、「頻繁に使ったのは最初だけ」「長時間読んでいると疲れる」という人も多いのでは? 電子書籍と従来の紙の書籍との差はどこにあるのか―視線の動きから読み方の違いを分析している、情報通信学部の山田光穗教授の研究室を訪ねました。

 小型で軽量なスマートフォンやタブレット端末などが近年急速に普及し、手軽にどこにでも情報を持ち運びできる時代がやってきました。その流れに合わせるかのように、これまで紙が主流だった書籍に関しても、電子書籍の読書に特化した専用端末が次々と市場に出回っています。

 「電子書籍はワンタッチでページをめくれたり、文字の大きさを自分の好みに変えられたりと、ユーザーにとって多くのメリットがあります。でも、その割には普及が進んでいないと思いませんか? 電子書籍をより身近なものにしたい、というのが研究の出発点です」

 紙書籍との読み方の違いに関する実験に際しては、2種類の電子書籍端末を用意し、それぞれのディスプレーの表示方法と同じサイズ(同じ字数・行数)になるように紙書籍を自作。双方の読書条件を可能な限り同じにしたうえで、改行と改ページを行うときの視線の動きを測定しました。

改ページの際の眼球運動に着目

 その結果、改行時の眼球運動については電子書籍・紙書籍ともにほぼ同じですが、改ページ時には大きな違いがあるということが判明しました。

 サッカードと呼ばれる跳躍的で高速度の眼球運動に着目すると、電子書籍の場合は改ページの際、水平・垂直方向ともに1回だけ生じるのに対し、紙書籍では複数回生じています=図1。さらに改ページ時の視線の平均移動距離を測ると、電子書籍のほうが短距離であることもわかりました。このことから、電子書籍はページ終わりの文末からページの文頭へほぼ一直線に眼球が動いているのに対し、紙書籍では視線が自由に動き回っているということが結論づけられました=図2。

効率的スタイルに合わせている!?

 「実験結果を見ると、電子書籍のほうが合理的な視線の動きをしているのは明らかです。ですが視線が固定化されてしまうため、疲労を感じやすい。機械的な動きを長時間続けなさいと言われたら、つらいでしょう? 目の筋肉も同じで、じっーとしているのが最もつらい。常に動いていたほうが楽なのです。このことからも、電子書籍は読みやすいし便利ですが、継続しにくいものだということがわかります」

 電子書籍の効率的なスタイルに、私たち人間が合わせている──すなわち、人間が電子書籍に支配されているのが現状。その点、じーっと1カ所を見つめながら紙書籍のページをめくる人はほとんどいないはずです。ページをめくる際、無意識のうちに視線が動きよそ見をしている。この遊びの時間があるからこそ、飽きず疲れずに長時間読み続けることができるのです。

 「電子書籍が『読まされているもの』なのに対し、紙書籍は『人が読んでいるもの』。紙書籍のような遊びをつくることができれば、その差が埋まると考えています。今後は電子書籍でも読みやすい字数や行数を検証することで、何らかの工夫をすれば紙書籍をこえられるのでは、ということを明らかにしていきたいと思っています」

focus
自分の目で見て、感じることで 得られる“何か”がある

 「研究以外では、電子書籍をあまり読みません。肩が凝るんですよ」と笑う山田教授。学生時代は画質評価の研究をしていましたが、その過程で人がどのように物を見ているのか──人の脳の仕組みに興味を持ち、視線の動きに関する研究の道へ。当初は視覚的により効果のあるテレビ番組を制作することを目指し、ドライバーの目の動きや、速読の名人と通常の人との目の動きの違いに関する研究などに取り組んできました。現在手がけている電子書籍の研究は、2007年から始めたケータイ小説読書時における眼球運動の解析が基礎となっています。

 「“目は心の窓”といわれるように、眼球運動を調べることによって、人の脳の仕組みを知ることができるのが面白い」

 人を測る・人を理解することで、人に優しいヒューマンインターフェースの開発などにつなげることが可能だといいます。「学生の皆さんにはいろいろなことに興味を持って、自分自身に投資をしてほしいと思っています。情報通信学部がある高輪校舎は都心のキャンパスのため、交通の便がいい。情報系の大規模な展示会が開かれる東京ビッグサイトや幕張メッセにも、比較的短時間で行けます。時間を割いてこれらの催しに行き、見聞を広めてください。自分の目で見て、感じることが重要なのです」

やまだ・みつほ 

1955年京都府生まれ。名古屋大学工学部電子工学科卒業。同大学院工学研究科前期課程修了。工学博士。80年にNHK入局。NHK放送技術研究所を経て、2003年から東海大学教授。

 (記事提供:「東海大学新聞」2014年1月1日号)
 関連リンク:情報通信学部情報メディア学科

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