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クローズアップ研究室

身近な食材で病気を防ぐ トマトの成分で動脈硬化を抑える 予防医学への貢献を目指す

2014年7月15日掲出

 初夏の旬の味、トマトがおいしい季節が近づいてきました。農学部バイオサイエンス学科で食品の機能性を利用して病気を予防する研究に取り組む永井竜児准教授らは、トマトに生活習慣病の一つである動脈硬化を抑える成分があることを発見。現在、トマトを使った機能性商品の開発に取り組んでいます。

 「トマトに含まれる栄養素といえば、その赤い色の正体であるリコピン。強い抗酸化作用を持ち、がん予防などに有効です。一方で近年、トマトの持つ新たな機能性成分としてサポニンという物質が注目を集めています」と永井准教授。「そのサポニンの一種である『エスクレオサイドA』(Esc A)という物質を摂取することで、動脈硬化の初期病変を抑えることができるのです」 

 永井准教授が研究に着手したのは2005年。当時、生活習慣病予防の研究に取り組んでいた熊本大学医学部で、同大薬学部との共同研究を実施したことがきっかけでした。「食品から取り出したさまざまな物質を使って、動脈硬化の発症過程に効果があるかどうか調べるなかで、EscAの効果を発見しました」と振り返ります。

ミニトマトが高含有、体内の3カ所で効果

 色素であるリコピンとは違い、EscAは透明な物質であるため、検出が難航しました。永井准教授らは独自に定量分析する方法を確立したことで、「ミニトマトの中にEscAはリコピンの21倍も含まれていることがわかった」といいます。

 ではなぜEscAが動脈硬化を抑えるのでしょうか? 「悪玉コレステロールと呼ばれるLDLが血管内に増えすぎると酸化変性し、その後、免疫細胞に取り込まれる。免疫細胞は酸化変性LDLを際限なく取り込み、泡沫細胞という、取り込んだ油滴により泡立ったように見える状態になります。これが血管内に蓄積していくことで動脈硬化につながる。EscAは、泡沫化の際に働くACATという酵素を抑制するのです」と解説します=上図参照。

 「さらに体内でコレステロールを生成する肝臓と、食事由来のコレステロールを吸収する小腸でもACATの働きを抑えます。3カ所で力を発揮することで動脈硬化の予防につながります」

長崎県などと共同で機能性商品を開発

 この機能性に着目した長崎県からオファーがあり、2011年から、EscA高含有のミニトマトの品種選定や栽培法の検証を進めてきました。13年からは長崎県内の企業と連携して諫早湾干拓地で栽培されたトマトを使ったトマトジュースやドライトマトといった商品の開発が進められています。「もともと海だった場所であり、土壌のミネラルが豊富。体によくておいしいトマトができています」。これらの商品は早ければ来年中に市場に出回る予定です。

 「EscAはどんなトマトにも含まれており、特に丸型のミニトマトがいちばん多い。コレステロールの値が高い人はぜひ食べてほしい」と永井准教授。「コレステロールの値は薬で抑えられますが、高くなってしまった時点で動脈硬化は進んでいる。元に戻るには5年から10年はかかります。有効な対策は適度な運動と食事制限ですが、加えてEscAを摂取することで病気の予防につなげてほしいですね」

focus
自分の健康を皆の健康につなげたい

 週1回必ず通うプールでは1000メートルを軽く泳ぎ、阿蘇校舎への出勤では、週1回はロードバイクで標高差約380メートル、約14キロを1時間で走る。「子どものころから体が弱くて、小中高と誰かが風邪をひいたら必ずもらって、さらにひどくして倍返し(笑)。それを克服しようと水泳を始めたことが今につながっています」

 肥満に伴う脂肪細胞や老化を促進するといわれる物質AGEsに関する研究、食品の持つ機能性の分析……加齢に伴って起きる生活習慣病対策を中心に積極的な研究活動を展開している。そのルーツは虚弱だった少年時代にあるといいます。「体を強くしようと水中ウオーキングから始め、徐々に泳げるように。大学には水泳部がなかったので自分で立ち上げ、教授会を動かしてプールも造ってもらいました」

 その学生時代に早期老化症について知り、研究者の道に進みました。老化に関する研究ができる大学院を求めて静岡、熊本へ。研究分野も老化現象に加えて予防医学へも広がってきました。「研究を続けるモチベーションの源は“自分の健康のため”。自分が健康であるということは、人のためにもなる。研究を通して社会に貢献していきたい」

ながい・りょうじ

1968年神奈川県生まれ。帝京大学理工学部卒業、静岡県立大学大学院生活健康科学部修士課程修了、熊本大学医学部大学院第二生科学講座博士課程修了。博士(医学)。熊本大学医学部助教、日本女子大学講師などを経て2012年度から現職。阿蘇校舎の学生サークル「ロードバイク同好会」=右写真=の顧問も務める。

Key Word 『動脈硬化』
動脈硬化は、食生活の偏りや運動不足により血管内の脂質が高まることで血液中の悪玉コレステロール(LDL)が酸化し、免疫細胞であるマクロファージに取り込まれ、さらに泡沫化し血管内に蓄積して隆起(プラーク)ができて起きる。進行すると酸素や栄養が組織に届かなくなり、心筋梗塞や脳梗塞など命にかかわる病気を引き起こす可能性が高まる。

 (記事提供:「東海大学新聞」2014年6月1日号)
 関連リンク:農学部バイオサイエンス学科

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