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クローズアップ研究室

『「ナック」と話せる日を夢見て イルカの認知機能を研究 人の言葉をまねする!? 海洋学部海洋生物学科 村山司 教授』

2014年11月17日掲出

 イルカと話したい―。その一心でイルカの認知機能に関する研究を続けている海洋学部海洋生物学科の村山司教授。ついにイルカが人の言葉をまねできることを立証し、このほど国際比較心理学雑誌電子版に発表しました。「会話ができるまでもうひと息」と話す村山教授を訪ねました。

9月21日には鴨川シーワールドで村山教授の講演会が開かれ、ナックとの“掛け合い”も実現。喝采を浴びた

 「しゃべった」のは、千葉県の鴨川シーワールドで飼育されているオスのシロイルカ(ベルーガ)、ナック。イルカは頭の上にある小さな呼吸孔(鼻)から鳴き声を出しますが、飼育員がマイクを使って話しかけると、ナックも呼吸孔を使って言葉をまねた音を出します。現在まねられるのは、「おはよう」「ピヨピヨ」など8種類以上にのぼります。村山教授は、飼育員とナック双方の“声”の周波数を丹念に分析。その結果、ナックが人の言葉をまねて音を出していることを立証しました=表1。

偶然がもたらしたナックとの出会い

 「九官鳥のような声マネを目指しているわけではありません」と村山教授。目標はあくまでもイルカと話すことです。

 「そのためには言葉を教える必要があります。たとえば人では、リンゴを見せたらそれをリンゴだと理解して“リンゴ”という音を出す。それができてはじめて、言葉を覚えたことになるのです」

 私たちが言葉を覚えるために繰り返し復習するように、この研究では一頭のイルカとじっくり時間をかけて向き合う必要があります。実験にふさわしい条件と、長期間、健康でいられるような飼育環境を探した村山教授。実験場所を探して鴨川シーワールドを訪れ、マリンシアターの全面ガラス張りの巨大な水槽を見て、「これだ!」と思ったとき、そこでゆうゆうと泳いでいたのがナック。20年以上前のことでした。「運命的な偶然」と村山教授は振り返ります。

ものの名を読み発音 言葉を「しゃべる」

 まず取り組んだのは、ものと記号を結びつける実験。飼育員が使うフィン(足ヒレ)、バケツなど、ナックが日ごろ見慣れている4種類のものを見せ、それに対応する記号を選ばせます。訓練の結果、ナックは飼育員がものを見せるとほぼ間違いなく、対応する記号を描いたターゲットを吻先(口先)でタッチするようになりました。

 次は、ものと音とを結びつける実験。ベルーガは「海のカナリア」と呼ばれるほど多様な美しい音を出します。ナックが出すさまざまな音から普段よく発するものを選び、フィンは“ピッ”と短い高音、バケツは“ヴォッ”と短い低音といった具合に、「ナック語」を作り覚えさせました。ナックはものを見て鳴き分ける実験をクリア。その逆に、スピーカーから出る音に応じてものを選ぶ実験も成功しました。

 「記憶力が抜群で、間違えても自分で軌道修正できる」。ナックの賢さにほれ込んだ村山教授は、飼育員とともに実験を重ねました。そして臨んだのが、人の言葉をまねること。ナックは飼育員の発する言葉を繰り返しまねて、「言葉をしゃべるイルカ」となりました。 実は、ナックにはもう一つしゃべれる言葉があるといいます。村山教授の名前です。飼育員に「ツカサ」と呼びかけてもらったときのこと。明瞭に聞き取れないこともありますが、村山教授は「ツゥ、カァ、サッと呼んでいます。ナックが僕の名前を呼んでくれた!」と満面に喜びを隠しません。「今度は“ツカサ”が私の名前だと理解したうえで呼んでくれたら」と、夢は膨らみます。「研究を通して、言葉が通じない相手との意思疎通を図るヒントを得られれば」。ナックとの二人三脚は続きます。

focus
すべては、『イルカの日』から始まった

政治経済学部政治学科 出雲明子 准教授

 海洋学者の研究によって、人と会話できるようになったイルカが登場するアメリカ映画『イルカの日』。高校1年生のときに見たこの映画が、村山教授の人生を決めました。

 「自分も、いつかイルカと話したい」

 研究者を志したものの、日本にイルカの認知機能を研究していた大学はなく、指導してくれる研究者もいませんでした。「それなら自分でやるしかない」。東北大学で水生生物について学び、東京大学大学院から東大海洋研究所(当時)へ。海外ではイルカの出す超音波は研究に取り上げられたりはしていましたが、イルカに言葉を教えたり知能を研究するなど、産業に結びつかない分野への風当たりは強いものでした。

 「失業時代は、研究者として、平日はウナギのライフサイクルなどの養殖に関する研究に携わりながら、週末はイルカの研究という生活が続きました」

 2000年に東海大学海洋学部へ。ようやくイルカの研究に打ち込める環境が整いました。「あきらめようと思ったことはない。“いつかイルカと話せるだろう”という思いは、あの映画を見た日から変わっていないんです」

むらやま・つかさ

1960年山形県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。農学博士。水産庁水産工学研究所(当時)などを経て2000年より現職。著書『イルカ』(中央公論新社)、『イルカの認知科学』(東京大学出版会)、『ナックの声が聞きたくて!』(講談社)など。

 (記事提供:「東海大学新聞」2014年10月1日号)
 関連リンク:海洋学部海洋生物学科

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