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クローズアップ研究室

航空機と気象の関係に迫る 3次元の可視化ツールを開発

2015年1月15日掲出

 国内外を短時間で結ぶ便利な航空機ですが、風や気圧といった気象の変化に左右されやすいのが欠点です。特に、気象が突然変化すると事故のリスクも高まります。そうした事故の原因究明に役立てようと、航空機と気象の情報を可視化するツール「Weather Data Visualization Tool(Wvis)」の研究に取り組んでいる工学部の新井直樹准教授を訪ねました。

Wvisの画面。2014年6月29日夕方、羽田空港付近を通過する積乱雲と着陸する航空機。当日は発達した積乱雲の影響で、航空機の流れが大きく乱れた。積乱雲の可視化には、防災科学技術研究所より提供を受けた気象レーダーデータ(レーダーは海老名市と木更津市に設置)を利用した

 国内線では現在、1日に2000をこえる航空機が飛び交っていますが、突然の雨や強い風にさらされることもあります。操縦士たちは事前のブリーフィングで高度ごとの気圧や風向きの予報値を記した高層天気図などの資料を読み解いて、目的地までの天候を予測。より安全な航路や高度を選んで飛ぶことで、乗客の安全を守っています。

 しかし、ときには予測不能の突風に見舞われ、現場では原因がわからない事例もあるといいます。「原因究明や予防のためには、気象学と航空工学を組み合わせてデータを分析する必要もあるのですが、これまでは別々に研究されており、両者を融合した分析が行われてこなかった。そのため、未解明の現象が多く残ってしまっている」と指摘します。

 新井准教授が開発しているWvisは、気象庁が1時間ごとに発表している気温や風向き、気圧などの数値予報のデータを解析し、3次元の画像として表示。さらに航空機が常時発信している高度と方角、スピードのデータを読み込んで画像化することで、気象の変化と航空機の挙動の関係を画面上で理解し、分析しようというものです。

画像データで事故原因を解明

 「気象庁の数値予報データは正確性が高い。リアルタイムにとはいかないものの、飛行データを組み合わせれば、かなり高い精度で両者の関係を明らかにすることができます。さまざまな異常事態の原因究明だけでなく、より安全な運航に向けた操縦士の教育にも生かせると期待しています」

 新井准教授のもとにはすでに航空会社から実際に発生した乱気流事例の原因究明の依頼も寄せられており、空の安全を守るツールの一つとして活用されつつあります。今後は利用者が簡単な手順で必要なデータを取り出せるようにインターフェースを工夫するなどして、操縦士のブリーフィングにも活用できるレベルまで改良する予定です。

全国にアンテナ巡らし幅広いデータを収集

 一方で、分析データの精度を高める努力も続けています。研究を始めたころは航空会社から提供されたデータだけを使っていましたが、より幅広いデータを収集するために東海大学の札幌、高輪、湘南、清水、阿蘇の各校舎と枚方市の付属仰星高校にアンテナを設置。航空機が常時発信している飛行データをリアルタイムで集め、正常な飛行データも含めて両者の関係を総合的に分析できる体制づくりも進めています。「データが多く集まれば解析の精度も上がる。各地の短期大学や付属高校、同窓会員などにも協力を仰ぎ、情報収集網を広げる考えです」

 一方で、気象データの可視化ツールとして、中学、高校などの教育への利用の可能性も探っている。「天気図だけでは理解しづらい気象現象も、立体的な画像であればわかりやすくなるのでは。今後もさまざまな可能性を探っていきたい」

focus
体当たりで現実と格闘した
 南極越冬隊での過酷な経験を生かす

工学部航空宇宙学科航空操縦学専攻 新井直樹 准教授

 「実際に現場に行って体当たりでぶつかることが大事。格好よくないかもしれないけれど、専門分野やプライドに閉じこもり、自ら体を動かせない人間は極限の世界では生き残れない」と語ります。

 2006年11月から08年3月まで、第48次南極地域観測隊越冬隊にGPSなどの観測を担当する地学隊員として参加しました。

 子どものころに見たペンギンの映像が忘れられず、ずっと憧れていた越冬隊。その現実は過酷でした。夏の間はひたすら道路や建物の建設作業。行く前は「専門家」としてのプライドもありましたが、知識や経験が役に立たず落ち込むことも。厳冬の夜にオーロラの観測に行けば、1晩で3キロほど体重が減ってしまうこともありました。「つらいことも多かったけれど、この経験ができたから今がある」と言い切ります。

 「いつか教員になりたい」と思うようになったのも、全国の小学生に南極での活動を伝える「南極教室」を担当したのがきっかけでした。

 航空操縦学専攻では、パイロットを目指す学生たちに航空気象について教えています。「夢を実現しようと頑張っている学生を後押しする仕事はなにより楽しいし、できる限りのことをしたいと思う。彼らには自分の殻を破り続ける人生を歩んでほしい。もちろん私も、負けませんよ」

あらい・なおき

1967年東京都生まれ。東海大学大学院工学研究科修了後、NEC生産技術開発本部、独立行政法人電子航法研究所主幹研究員。第48次南極地域観測隊越冬隊に参加後、2012年から現職。専門は航空気象。

 (記事提供:「東海大学新聞」2014年12月1日号)
 関連リンク:工学部航空宇宙学科航空操縦学専攻

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