1. トップ
  2. 東海イズムトップ
  3. クローズアップ研究室

クローズアップ研究室

鳥インフルエンザ拡大を防ぐ
国境をこえた監視網

2015年3月16日掲出

 ヒトへの感染が危惧されている鳥インフルエンザの拡大をいかに防ぐのか――。国境をこえて移動する渡り鳥の国際的な情報収集・交換ネットワークの構築に、国際連合の専門機関である「国際電気通信連合(ITU)」の議長とし て尽力する医学部の中島功教授に聞きました。

ハクチョウに装着する小型送受信機は、マッチ箱程度の大きさ。長距離を移動する鳥の負担にならないよう、体重の4%以下の重さに設計されている。外観は箱状で、羽根の運動を妨げないだけでなく、ソーラーパネルが背部にくるよう、ランドセルを背負うような形で装着する

 大空を自由に旅する渡り鳥たち――彼らが運んでくるのは季節の便りだけではありません。私たち人間にとっても脅威となる、強毒性の鳥インフルエンザも連れてきます。

 東南アジアを中心に、鳥類へのウイルス感染が確認されているだけでなく、一部地域ではすでにヒトへの感染例も報告されています。近い将来、世界的な大流行を引き起こす危険性も指摘されているのです。

 「これからは、渡り鳥をはじめとする野鳥を管理し、共存する時代。そのためには国際的な監視網が必要になる」

 中島教授は昨年、ITU電気通信開発部門議長に就任。開発途上国への電気通信技術援助などの公共政策を担当する同部門の活動の一つとして、通信衛星を使った渡り鳥の追跡調査や、鳥インフルエンザの国際的な情報収集・交換ネットワークの構築を進めています。

小型送受信機を使った観察システムを考案

実験用に繁殖させたキジを使用した事前調査の様子。鳥類には横隔膜がないため、飛翔中における気嚢(呼吸器系)の動きを分析している

 「渡り鳥の移動経路や体調異常をリアルタイムで把握できれば、感染被害を最小限に食い止めることができるはず。残念ながら標識番号を鳥の首や足に装着する従来の方法では、網で捕獲するか落鳥しないと調べられない。そのため、断片的な情報しか手に入れることができなかったのです」

 そこで中島教授は、鳥の呼吸数や心拍数などを計測するセンサーとソーラーパネル、小型送受信機(子局)を渡り鳥に装着し、そのデータを専用の受信機(親局)で収集する観察システムを考案。受信データを分析することで、鳥の移動経路や体調の変化を探ろうと試みています。

 これまでの実験で、圧力センサーや心電図電極から得られた鳥の呼吸数や心拍数、歩行や羽ばたきの活動と同期した動きを、角速度センサー(物体の回転速度を計測する機器)と数理解析で検出できることを確認。この手法で、インフルエンザなど感染症にかかった個体をスクリーニングできることを明らかにしました。

鳥の移動経路などのデータ蓄積を目指す

 今後は千葉県にある山階鳥類研究所の協力のもと、日本に飛来するハクチョウの群れに小型送受信機を装着。シベリアで越夏した個体が再び日本に戻って来たときに、データを収集する実験に取りかかる予定です。そのための機材の無線局免許を、総務省傘下の機関からすでに得ています。

 「子局同士が互いのデータを自動的にやりとりできるシステムなので、群れごとの動きだけでなく、シベリアのどこで、どの群れに会ったのかを読み取ることもできます」

 研究が進めば、鳥の移動経路や所要時間をデータとして蓄積できるほか、鳥インフルエンザの感染ルートもこれまで以上に明確になるはずです。

 

focus

国の枠にとらわれない
広い視野で考える力を養ってほしい

 通信関係の専門家ではない〝医師〞として初めて、ITU電気通信開発部門の議長に就任した中島教授。

 医学部卒業後は外科医として救命救急の道へ。遠隔医療に携わるかたわら、災害通信に関する知識を深めるべく2008年に兵庫県立大学大学院に入学。通常は3年かかるところを、わずか1年半で応用情報科学の博士号を取得―という経歴の持ち主です。

 「大学を卒業してから30年近く経っていたし、医師として勤務を続けながらの大学院挑戦だったから大変でしたよ。僕がなぜできたのかというと、高校時代から工学分野が得意だったから」と笑います。

 実は今でも、いちばん好きなのはコンピューターのプログラムを作ること。通信に関する専門用語が飛び交うITUで議長の大役を果たすことができるのも、このような背景があるからです。

 「グローバル化が進む現代では、地球単位でルールを決めることがますます求められる。だからこそ、国際機関の上級職員として活躍する東海大学の卒業生が増えることを期待しています。そのためには語学も重要ですが、広い視野でものを考える力が大切。常に海外に目を向けていく姿勢が必要だと思います」

Key Word

国際電気通信連合(ITU)

 電気通信に関する国際連合の専門機関。加盟国のほか、民間企業や大学も参加できる。東海大学は2000年から13年までセクターメンバー(14年からアカデミアメンバー)。14年間にわたって中島教授が電気通信開発部門副議長を務めたほか、ITUの依頼を受け、東海大学総合医学研究所で途上国での遠隔医療エキスパート養成を担ってきた。

なかじま・いさお

1953年東京都生まれ。東海大学医学部卒業後、同学部講師、総合医学研究所先端医工学部門助教授、教授を経て現職。博士(医学、応用情報科学)。遠隔医療が専門で、衛星を使った途上国のための遠隔医療ネットワークなども構築している。

(記事提供:「東海大学新聞」2015年2月1日号)
関連リンク:医学部医学科

クローズアップ研究室の一覧