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クローズアップ研究室

新しい“細胞複製像”に迫る
染色体が増える仕組みとは?

2015年4月15日掲出

 我々人間はもちろん、イヌやネコ、魚に鳥に細菌だって生きていくうえでは細胞分裂を繰り返し、成長させて体を維持しています。その細胞内にあり、自身の情報を伝える遺伝子が書き込まれた染色体を保持する仕組みは、すべての生物にとってもっとも重要な機能といえるでしょう。染色体の修復や複製開始機構の研究を続ける生物学部生物学科の海藤晃弘准教授の研究室を訪ねました。

単細胞真核生物や多細胞生物の体細胞の分裂ではアルファベットのI状の染色体が複製され、接着した状態で細胞の真ん中に整列した後、中心部分の動原体付近を除いて接着が外れる。X状になった染色体は細胞の両端から伸びる糸に両側から引っ張られ両極へと分かれる。その後、細胞質の分裂が起きて元と同じI状の染色体を持つ細胞が2つできる。海藤准教授が対象とした大腸菌もこれに含まれる。

 体の成長や維持のために細胞が分裂する際、その中にある染色体も当然2つに分かれることになります。人間の場合なら染色体は必ず2本セットなので、ひも状の染色体が複製され(開き)2倍になっていきます。

 「染色体やDNAに関する研究は1970年代には世界中の研究者によって本格的に取り組まれており、2000年代にはその複製のシステムは〝もう、わかった〞となりました。ある意味で完成しているともいえるテーマです。私の研究はその結論に対して、現代の技術で新しい光を当て、さらに詳細なメカニズムを解明しようというものです」

  海藤准教授が取り組んできたのは「細菌の定常期状態における染色体維持機構とその生成開始への関与―新しい細胞複製像」。こう書いてしまうとなにやら難しそうですが……大腸菌を対象に、ある程度成長して一定の大きさ(定常期)になった細胞の中で、体を維持するために染色体が生成される仕組みを解き明かそうというものです。

  「成長期の細胞では、『RecA 』という組み換え酵素やDNA複製開始のきっかけをつくる開始タンパク質『DnaA 』が、染色体が開くための因子として働きます。DnaAを利用しない場合、“染色体維持にかかわるRecA が代わりをできる”とされていました。染色体複製も染色体維持もDNA複製現象である点は同じだからです」

恩師から引きつぎ最新機器で解析

 ここまでは海藤准教授が90年代に師事したアメリカ・ニューメキシコ大学の故・小古間時夫博士らの研究によって解き明かされていましたが、その研究を引き継ぎ、さらに分析を加えていったのだといいます。では、成長して定常期に入った細胞にも作用しているのでしょうか。

 「DnaA もRecA もエネルギー源としてアデノシン三リン酸(ATP)を多く消費しますが、定常期の細胞内にはATPが十分ではありません。その環境でRecA が働くのは合理的とはいえないし、生物にとっては定常期のほうが長いのです」と海藤准教授。

 そこで遺伝子操作でRecA が欠損した大腸菌株を作り、その染色体複製を最新の分析機器で解析してみたところ、RecA に代わる新しい因子の存在がわかったのだといいます。

観点の入れ替えで定説を覆す!?

 「染色体が複製する際に作用する遺伝子として、新たにsrp 遺伝子を確認しました。この作用によってDnaA やRecA がなくとも複製も維持もできる。これまでの定説を覆す成果といえます」と海藤准教授は成果を語ります。「この場合は定常期では、染色体維持こそが複製の本体であり、成長期の染色体複製は準備段階と捉えることが可能となります。観点を入れ換えた、いわゆる『downunder』ですね。技術の進歩でより詳細に細胞の解析ができるようになったことで、小古間先生と立てた仮説を証明できました」

 これらの技術は将来的に、私たちの暮らしにどのようにかかわってくるのでしょう?

 「ゆくゆくは現在流通している抗生物質とは全く作用機構の違う薬への応用が考えられます。抗生物質は病原細菌が生きる仕組みを邪魔するものですが、今回の研究成果をもとにすれば、細胞の修復と複製を支えている部分をたたく―細菌が自己を維持できないようにする薬が開発できるでしょう」

 

focus

明日を信じる心で
納得いくまでトライしよう!

 「研究を続けてきたモチベーションは単純に“知りたかったから”のひとことに尽きます。なぜそうなっているのか、納得したい。自分が取り組んできたことが間違っていても納得できればいい、それならなぜ間違ったのかを知りたい」

 研究者として遺伝子の謎に挑み続けてきた海藤准教授。「学生たちにはいつも“明日はきっと新しいことがわかる”と信じる心が大切、と話しています」とのこと。

 今回紹介した研究も、明日を信じ、挑戦を続けてきたからこそ。「基礎中の基礎研究で、マニアックな内容(笑)。でも私の研究室に所属する学生たちは代々夜遅くまで実験に取り組んでくれた。指導しながらも励まされています」

 研究のかたわら、高校時代から打ち込むラグビーでは、今も地元のクラブチームでウイングとして試合に出場。札幌校舎のラグビー部では監督も務めています。

 「ウイングは点取り屋のイメージだけど、私のプレースタイルは一番にボールへと食らいついて仲間につないで……それがトライにつながれば最高です。研究もラグビーも納得いくまでトライですね」

Key Word

遺伝子と染色体

 遺伝子は遺伝情報の最小単位であり、その情報が書き込まれた物質がデオキシリボ核酸= 「DNA」。DNAがヒストンというタンパク質に巻きつき、さらに小さく折りたたまれて太く短くコンパクトになったものが染色体で、細胞の中にひも状で存在する。

かいどう・あきひろ

1965年北海道生まれ。北海道大学農学部卒業、同大学院農学研究科修了、東京工業大学大学院理工学研究科修了。工学博士。東工大職員を経て、アメリカ・ニューメキシコ大学助手。98年度から北海道東海大学工学部(当時)に着任。専門は分子生物学。全国クラブ選手権も制した名門ラグビーチーム「北海道バーバリアンズ」に所属し、年間10試合程度に出場している。

(記事提供:「東海大学新聞」2015年3月1日号)
関連リンク:生物学部生物学科

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