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クローズアップ研究室

甲殻類の生命現象を解明する
ヒトよりもナゾが多い!?

2015年6月15日掲出

 生き物の成長や新陳代謝、感情などを司るホルモンをはじめ、さまざまな生命現象を分子レベルで解明していく分子生物学。2000年に全ゲノム構造が明らかになるなど、ヒトを対象とした部分では発展を遂げています。では、ほかの生き物でも同じように研究が進んでいるのでしょうか? エビやカニといった甲殻類のホルモンを研究している工学部生命化学科の片山秀和講師に聞きました。

クルマエビなどの甲殻類は、眼と頭をつなぐ「眼柄」という部分にホルモンを作るX器官と、体内に放出するサイナス腺がある。片山講師が明らかにした脱皮抑制ホルモン(MIH)と甲殻類血糖上昇ホルモン(CHH)のリボンモデル(左)と分子の立体構造(右)を見ると、よく似ているものの少しずつ構造が違うことがわかる

 「甲殻類の研究はヒトより10年から20年は遅れています。どうしてもヒトの病気の原因解明や、害虫駆除を目的にした昆虫の研究など、日常生活により身近な研究が進んでいるのが現状です」

 片山講師は、分子生物学とタンパク質の合成法や機能を分析する有機化学を組み合わせて、甲殻類のペプチド(タンパク質)ホルモンの構造や機能を明らかにし、体の状態を一定に保ち、成長や代謝を促す内分泌系の仕組みを解明しています。

 「両方の分野を扱っている大きな研究機関もあるのかもしれませんが、大学の一研究室で取り組んでいるのは世界的に見ても珍しい。エビやカニは各国の料理で使われている、需要の多い食材です。その基本的な生命現象を明らかにすることは、将来の食糧問題の解決につながる可能性を持っています」

世界で初めてホルモンの構造を解明

 高級食材として知られるクルマエビの脱皮と血糖値はそれぞれ、脱皮抑制ホルモン(MIH)と甲殻類血糖上昇ホルモン(CHH)という2つのホルモンによって制御されています。「これらは甲殻類の成長にとって重要な物質で、1910年ごろにはその存在が知られていました。遺伝子の配列を見たときの構造はとてもよく似ているのに、なぜか機能が違う。その理由は、長く謎とされていたんです」

 片山講師は原子一つひとつを区別し、相互のつながりを観察できる核磁気共鳴装置を使ってMIHを分析。その立体構造を世界で初めて決定しました。そのうえでMIHとCHHの一種のアミノ酸配列や電荷などの分子構造を詳細に比較し、分子の中で血糖値の上昇や脱皮の抑制に作用している部分を特定するに至りました。「作用する部分が明らかになったことで、ホルモンの働きに作用する薬の開発なども可能になりました」

 さらにその後の研究で、それまで誰も成功していなかった甲殻類のペプチドホルモンの人為的な合成技術を確立。クルマエビの性別を決定する造雄腺ホルモン(AGH)の構造と機能を解明するなど、基礎分野の成果を積み重ねています。

性別を決める物質を特定 人工合成も可能に

 「エビやカニなどの十脚目動物は基本の状態では雌として生まれる仕組みですが、AGHを持つ個体だけが雄になるため、造雄腺ホルモンと呼ばれています。ただこの物質は体内に少ししか含まれていない。そこで、候補となる物質を合成して機能を解析した結果、2007年に機能は不明ながらAGHである可能性が考えられる物質として発表されていたものが、そうであると確認できたのです」

 片山講師はこのほかにもさまざまな生物のペプチドホルモンの合成に取り組んでおり、生物学や有機化学にかかわる学内外の研究者と共同研究も積極的に行っています。「甲殻類は、基本的な生命現象であっても未解明の部分が多く残されており、今後の発展が期待されている分野だと思います。より多くの学生にも興味を持ってもらい、一緒に謎の解明に挑んでいきたいですね」

focus

楽しむことを忘れず 地道な努力を大切に

 「生命現象の基礎を地道に研究していくのは何よりも楽しい。人生楽しくなければ意味がないですからね。でもそれを実現するためには、自分なりに方向性をしっかり持つことも大切です」と笑います。

 薬品を混ぜ合わせたときに色が変化する様子を観察する科学実験や、パズルを解いていくように解答に向かっていく数学が子どものころから好きでした。

 「絶対の正解がわかっていないからこそ研究は面白い。学生がいない長期休暇中はそれこそ、自分の全力を研究に投入しています。予想外の結果が出ることもありますが、そんなときでもこれを何かに使えないかな?と考えるくせがついていますね」

 一方で、日ごろの指導では、研究を通して社会人としての力をつけるよう心がけています。「研究中に問題が起きて学生が相談に来ても、答えを直接教えることはしません。また疑問点の説明が不十分であれば"説明の意味がわからない"と伝えるようにしています。ちょっと意地悪に聞こえるかもしれませんが、それが学生が成長する一番の近道なんです」

 ひとにわかるように説明する力や自分で考える力、トラブルを解決する力は、何度も失敗して怒られることで初めて身につくものです。「とはいっても、社会人にはゆっくり失敗して成長している余裕はありません。だからこそ、研究室に所属している時間が重要なんです」

 一方で、学生たちにも楽しむ心を忘れないでほしいとも語ります。「楽しんで続けていれば、自分の中でひらめくこともある。これからもやりたい研究を続けて、その魅力を社会にアピールしていきたい」

かたやま・ひでかず

1977年東京都生まれ。東京大学卒業後、同大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻修了。大阪大学蛋白質研究所特別研究員などを経て現職。博士(農学)。

(記事提供:「東海大学新聞」2015年5月1日号)
関連リンク:工学部生命化学科

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