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クローズアップ研究室

「日本型統合医療」を目指す
西洋医学と漢方を組み合わせ

2015年9月15日掲出

 「苦い」「難しい漢字が並んでいてよくわからない」など、なんとなくとっつきにくいイメージのある漢方。でも、ちょっとした不調を感じて葛根湯や漢方胃腸薬などのお世話になった人は多いのでは? 医療現場でも注目されつつある漢方について、医学部医学科専門診療学系漢方医学の新井信准教授に聞きました。

 「漢方は、約2000年前に中国で発祥した医学が6〜7世紀ごろ伝わり、江戸時代に独自の発展を遂げた日本の伝統医学。オランダからもたらされた西洋医学“蘭方”と区別して、中国(漢)由来の医学という意味で“漢方”と呼ぶようになったんですよ」と説明してくれた新井准教授。

 「漢方薬の効能は、長い年月にわたる臨床の積み重ねでわかってきたもの。大学として取り組むからには、なぜ効果があるのかを科学的に解明することが重要です」

 そこで新井准教授は石井直明教授(医学部基礎医学系分子生命科学)らとともに、2005年度から漢方薬の抗老化効果の研究に着手。下剤で使われることの多い生薬(漢方薬に用いる鉱物や動植物)の一つであるダイオウに、その効果があることを突き止めました。その後、10年度からの4年間は分子生命科学が専門の梶原景正講師(医学部)らとともに科学研究費助成事業の採択を受けて研究を継続。現在は遺伝子レベルの研究を進めています。

 「臨床で得た成果を基礎研究にフィードバックし、そこで実証された効能を効果的に臨床に生かす循環ができれば、医療現場での漢方の可能性はもっと広がるでしょう」

大学病院ならではの漢方医学とは

漢方医学の診察では、必ず脈と舌とおなかの状態を観察する。写真は脈の状態を診る脈診をしているところ

医療用として使われる漢方薬は携帯に便利で服用しやすいエキス剤=写真上=が主流だが、生薬を用いた煎じ薬も健康保険で取り扱われる

 内科の専門医でもあり、医学部付属病院の漢方外来で診療にあたっている新井准教授。大学病院における漢方医学の役割は、西洋医学との統合医療として重篤な患者に向き合うことだといいます。

 西洋医学では病変部や検査の異常に着目し、ウイルスや腫瘍などを取り除くことで病気を治そうとします。それに対して漢方医学では患者の自覚症状を重視し、不快な症状を和らげたり人体そのものの免疫力を高めて体の状態を改善しようとします。「特徴の違いを組み合わせる治療は、最先端医療を施す大学病院でこそ力を発揮します」

 たとえばがん治療の場合、手術や化学療法など西洋医学の治療によって病根は消えても、食欲不振などから体力や気力が低下することがあります。そのような場合に漢方医学の診断に基づいて症状を緩和させる漢方薬を処方し、体力や気力を補うことで再び西洋医学的な治療が続けられるようになります。こうした治療で用いられる漢方薬は、西洋医学で処方される薬と同様に効果や品質、安全性などの基準や、用法、用量も決められていて、現在は148種類もの漢方薬に健康保険が適用されています。

 最先端の西洋医学と伝統医学である漢方医学との併用。それを新井准教授は“日本型統合医療”と呼んでいます。「医療現場での併用が進んでいるとはいえ、漢方医学はまだ創成期。パイオニアとして臨床や研究、教育に取り組んでいきたいと思います」


focus

よりよい診療には複数の視点を持つことが大切

新井准教授(右)と、今年度から着任した中田佳延助教。中田助教も循環器内科の専門医として漢方薬を併用した経験から、漢方の魅力にとりつかれた一人だ。「漢方薬の効果を採血データや画像診断などで検証し、世界に発信できれば」と意気込んでいる

  小学6年生のときに「10年後の私」という文集に、「漢方の魔術師になる」と書いた新井准教授。海軍の薬剤官だった父親が独学で漢方を学び、経営していた漢方薬局の調剤室に並べられた生薬を見ながら育った新井少年は、やがて大学で薬学部に進学。しかし、どうしても医学も学びたいと卒業後に医学部へ。

 薬学と医学の両方を学び、気づくと「漢方の魔術師」という夢に手が届くところにいました。「ここまで20年以上はかかりましたけれどね」と笑います。

 「サッカー選手でも宇宙飛行士でもいい。若者には、夢を持ち続けろと伝えたいですね」

 今、大切にしているのは、複数の視点を持つこと。「西洋医学の視点だけではなく、漢方医学の立場からも患者さんに向き合うことで、よりよい診療ができると思っています」

Key Word

専門診療学系漢方医学

 東海大学では2002年から、㈱ツムラの寄付講座として東洋医学講座を開講。学生に実習を含めた講義を開始し、市民公開講座を重ねてきた。その成果をもとに、今年度から医学部医学科専門診療学系漢方医学を設置。大学の医学部における漢方医学研究の先駆けとなっている。

あらい・まこと

1958年埼玉県生まれ。東北大学薬学部、新潟大学医学部卒業。医学博士。医師、薬剤師。専門は漢方医学。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て2005年から東海大学医学部。主な著書に『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)など。

(記事提供:「東海大学新聞」2015年8月1日号)
関連リンク:医学部医学科

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