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クローズアップ研究室

五輪と生活の関係性を探る
スポーツイベントの評価とは?

2015年12月15日掲出

 2020年に行われる東京オリンピックに向けて、新国立競技場の建設問題が起こったことは記憶に新しいところです。一方で現代の五輪では、開催後における遺産(レガシー)の活用のあり方が開催国に問われています。スポーツや関連するイベントが人々の暮らしに与える影響について研究する、国際文化学部地域創造学科の植田俊助教を訪ねました。

2002年に閉鎖された「手稲山ボブスレー競技場」。植田助教とともにここを訪れた学生たちは、「まさか五輪会場だった場所がこんな廃墟になってしまうとは」と一様に驚いた様子だったという(写真=植田助教提供)

「札幌では1972年に冬季五輪が開催されました。その際に行われた開発や競技場などの遺産、または五輪という出来事自体が地域住民にどのような影響を与え、今に至っているのか調査に取り組んでいます」と植田助教。2年前に札幌校舎にある地域創造学科に赴任して以来、スポーツ社会学の視点から“スポーツが市民生活に与える影響”について調査を重ねています。

「五輪は“札幌という街を劇的に変えた”と言われていますが、地域に入ってきたモノ、レガシーがどのように残り、人々の生活に関係しているのか明らかにしたいと考えています」

過去の情報を読み解き住民に聞き取り調査

 学生たちとともに、過去の新聞記事を収集し、市民の経済指標に関するデータを読み解き、さらに地域住民へのインタビューも実施。主に校舎のある札幌市南区内で町内会や団地単位で“五輪を経て生き方が変わったか?”“五輪に関連して家庭環境の移り変わりがあったか?”など個人的なエピソードまで丁寧に聞いて回っています。「長時間かけて話を聞く中で、個人や家庭の歴史が見えてきます。資料や統計を土台に、生活に寄り添ったフィールドワークを加えることで、スポーツイベントの本質に迫った評価ができるのです」

 一方で五輪会場となった競技場も巡ります。たとえば、約4億円をかけて建設された日本初の正式コース「手稲山ボブスレー競技場」は2002年に閉鎖されており、現在では廃墟となっています。「スポーツといえば陽の部分に目が行きがちですが、五輪施設といえども経済的事情などから必ずしも存続していくとは限りません。学生たちが陰の部分にも目を向けるきっかけになれば」という考えからです。

26年の五輪招致に向け政策提言につなげる

 札幌市では東京五輪の6年後、26年の冬季五輪開催地に立候補する動きがあります。実際の招致活動や開発計画も進んでいるそうです。

「市民の方々の声を聞くと、72年の五輪は『いいか悪いかわからない』といった声が多いのが事実。また、26年の招致に向けて地域全体で考えようという意見も高まっています。行政主体の招致活動を自分たちの側に引き寄せようという取り組みです。行政や関係機関はさまざまな状況を踏まえて、計画を進めていかなくてはなりません」と語る植田助教。

 研究者は、行政や広く社会に対して単純に反対か賛成かではない立場から情報を発信していくのが役割と力を込めます。「招致に向けた街の整備や開発はこれからどんどん進んでいきます。それらの動きに対して、今進めている研究をいち早く社会に還元する必要がある。今後も調査研究を進め、政策提言などにつなげていきたいですね」


focus

現場で、地域で学ぶ
まちづくり活動にも尽力

「スポーツと地域」を研究テーマに掲げ、五輪だけでなく、「ラジオ体操とスポーツ」「日系移民のコミュニティ形成・社会関係形成とスポーツ」などについて日本各地の現状を調査研究する植田助教。

 そのモットーは「現場に出て、地域の方々から学ぶ」です。「人は必ずどこかの地域や社会に足場を置いて生活します。人々の生き方や暮らしを営む際の基準を社会学とスポーツの視点から調べていきたい」

 地域とのかかわりが重要な研究だけに、自ら地域に溶け込み、住民と密接な関係を築いています。昨年度には学生たちと、札幌市南区石山地区で「地域交信カフェ『スリーカフェ』」の運営も始めました。住民の集いの場をつくり、交流や情報発信の拠点とすることで高齢化が進む街の活性化に貢献しようという取り組みです。

昨年2月にオープンした学生が運営する「地域交信カフェ『スリーカフェ』」。授業の合間を縫って週4日程度営業し、連日多数の住民らが訪れている

「学生たちとカフェを始めることになったきっかけは、ある学生の『カフェを自分で運営してみたい』という夢からでした。その夢の実現過程に私の研究テーマである地域活性化や高齢化、過疎化対策などと結びつけ、現在の地域に密着した運営形態となりました。その活動を地元の企業に評価していただき、札幌五輪招致に関連して開かれた英語でおもてなしするカフェを共同で主催したりもしました」

「多様な経験を積んで社会に出て活躍できる人材に育ってほしい」との願いから学生とともにまちづくり、地域おこしに奮闘する。「一緒に行動する中で自分も教員として成長していきたい。これからも“のびしろ”を止めることなく、さまざまな活動に挑戦していきます」

うえた・しゅん

1983年岩手県生まれ。横浜国立大学教育人間科学部学校教育課程卒業。筑波大学大学院人間総合科学研究科体育科学専攻博士課程後期単位取得満期退学。2014年4月から東海大学に着任。専門はスポーツ社会学、地域スポーツ論。高校時代はサッカー部で主将を務めた。

(記事提供:「東海大学新聞」2015年11月1日号)
関連リンク:国際文化学部地域創造学科

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