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クローズアップ研究室

臓器線維症の謎を解明し
ガンや肝硬変の治療につなげる

2016年5月16日掲出

 内臓のがんや肝硬変といった病気は、若い世代にとっては自分に関係ないと思っている人が多いのかもしれない。しかし、年齢を問わずこうした病気に多くの人が苦しんでいるのも現状だ。そんな内臓の病気の発生母地となる“臓器線維症”に、医学部の頭脳を結集し“分子病態医学”という新たな手法で挑んでいる稲垣豊教授を訪ねた。

 胃や腸などのさまざまな臓器にできるがんと、肝臓が硬くなり機能が著しく低下する肝硬変などの臓器線維症。世界中の研究者の努力によって、健康診断などの際に運よく早期に発見できれば治療でき、悪化を防げる病気になっている。それでも、国内で支出されている医療費約40兆円のうち3割にあたる12兆円は、これらの治療にあてられているのが現状だ。

マトリックスに着目して治療や創薬に生かす

 医学界では長年、これらの病気については臓器ごとに研究され、病因解明や治療法開発に取り組んできた。

 稲垣教授は、「最近の研究で、これらの病気が悪化する過程では、コラーゲンやヒアルロン酸などからなるマトリックス成分(細胞間物質)が大きく影響する共通のメカニズムがわかってきた」と語る。

 人の体は60兆個をこえる細胞でできており、その一つひとつをつないでいるのがマトリックスだ。臓器や神経、皮膚などあらゆる組織の形を保持しつつ、ストレスや外傷で多少の傷を負っても速やかに機能を修復するなど、生きるのに欠かせない役割を果たしている。

 ところが、長期間にわたって同じ場所に傷を負い続けると、マトリックス成分が細胞間に固まって沈着し、臓器自体が固くなって、機能が低下する「線維化」という現象が起きる。

基礎と臨床の融合で多くの患者を救う

 これまで国内では、臓器をこえてマトリックス成分の働きを研究する機関は存在しなかった。そこで稲垣教授は、疾患モデル動物の作出や病気を遺伝子レベルで解析する分子生物学の専門家と、患者を診察する幅広い臨床分野の研究者を医学部内から結集。各臓器に見られる臓器線維症を横断的に研究するマトリックス医学生物学センターを2014年に開設し、文部科学省の平成27年度「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」にも採択された。

 「遺伝子レベルでマトリックスの機能や病気が発生する過程を明らかにし、その成果を線維化が起きている場所を特定する診断法や薬の開発につなげるのが狙い。線維症の病態解明に系統的かつ横断的に取り組む研究拠点を目指しています」と語る。

 すでに東京大学との共同研究では、肺の線維症をもたらす細胞が病変部位に集まるメカニズムの一端を明らかにしたと発表。今年3月には、メンバーの一人である住吉秀明講師の研究グループが、ミズクラゲのコラーゲンが皮膚の再生に効果があることを発表するなど、着実に成果を上げている。春には、最新の機器を整えた実験施設も完成した。

 「前者が基礎研究、後者が臨床に近い分野で、それぞれ結果が出ています。線維症の予防や治療ができるようになれば、これまで以上に多くの患者さんを救えるようになる。これからも、基礎と臨床を融合させながら新しい成果を発信していきたい」


focus

唯一無二の研究拠点へ
成果をいち早く患者に届ける

 今年春に伊勢原校舎に開設された「マトリックス医学生物学センター」は稲垣教授がセンター長を務める。その実験施設は、動物実験室、細胞実験室、タンパク質・核酸実験室、機器測定室、データ解析室、会議室などで構成される。中でも特徴的なのは、日々の診察にあたる臨床系の教員も実験機器を共同で使えるようになっていることだ。

 稲垣教授は「これまで臨床系の先生方は十分な実験スペースを持っていませんでした。共用施設にすることで、機器の効率的な利用にもつながり、基礎と臨床の先生方の議論もさらに活発になると期待しています」と話す。

 内科医として患者の診察にもあたっている稲垣教授。その中で感じてきたのは、生命の根源の解明にもつながる基礎研究を大切にしつつ、その成果をもっと早く患者に届けられる方法はないかということだった。

 「両方の研究が融合することで初めてそれが可能になる。研究室をこえて議論できる素地がある東海大学だからこそ、できた組織」と語る。

 今後は、臓器線維症について臓器を横断して研究する日本で唯一無二の研究拠点を形成し、国内外から若手研究員を積極的に受け入れ、人材の育成にも力を入れていく。

いながき・ゆたか

1958年東京都生まれ。金沢大学医学部卒業、同大学院医学研究科修了。医学博士。2002年に東海大学に着任。専門は、消化器肝臓病学・分子病態医学。2016年より日本結合組織学会理事長。 マトリックス医学生物学センターは研究プロジェクト「臓器線維症の病態解明と新たな診断・予防・治療法開発のための拠点形成」(研究代表者=稲垣豊教授)の一環で整備される大学院医学研究科の研究センター。私立大学が独自の経営戦略に基づいて行う研究基盤の形成を支援する文部科学省の「平成27年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の採択を受けている。医学部医学科から13の研究グループが参加し、臓器線維症の病態解明や診断マーカーの確立、新規薬物治療法の開発など、各グループが有機的に連携しながら研究を進めている。

(記事提供:「東海大学新聞」2016年4月1日号)

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