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クローズアップ研究室

持続可能な社会をつくる

2016年7月15日掲出

複眼的視野を持った人材育成を

 気候変動や生物多様性への問題意識は、21世紀に入ってますます高まっている。豊かな地球環境を守って未来へと引き継いでいくために、私たちは何をすればいいのか? 環境教育やESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)を専門とする教養学部の岩本泰准教授に聞いた。

 “環境を守る”というと、「水を出しっ放しにしない」「電気のスイッチをこまめに消す」といった直接的行動を思い浮かべる人も多いはず。

 でも岩本准教授は、「なぜ節水や節電をするのか? その行動の目的や結果を考えることも必要」としたうえで、「環境というキーワードを“地域の自然を保護する”ことだけに限定して考えてしまう人が多いのも問題です」と語る。

 里山や農地の荒廃は、それを管理する人手の減少に起因する。さらに人手の減少は過疎化を招き、やがては地域経済の崩壊に至る。“環境が破壊される”ということは、地域社会のコミュニティーが崩壊し、経済が疲弊することなのだ。

 「だからこそ、環境・経済・社会のトライアングルを意識して、各地域の課題を捉えることが大切なのです」

 ここで大事なのが“地域の文脈で考える”ということ。日本国内における水の問題にしても、沖縄や四国のように水不足に悩まされる地域もあれば、そうではない地域もある。背景もそれぞれ全く違うのだ。

 「自分たちの行動が、持続可能な地域づくりとどのようにかかわるのか? 複眼的視野で考えられる人材を育てる教育が求められています」

エシカル消費を新たな切り口に

 そこで今、力を入れているのが、学生たちの環境意識を地域づくりや社会変革と結びつける学びの実践。その切り口の一つとしているのが、“観光による地域開発”だ。たとえば、外国人の目線で自分の住む地域を眺めてみることで、これまで気づかなかった魅力を発見し、それをもとにこの美しい場所をいかに守るのかを考える……。

 「一見すると接点のないように思える観光と環境問題が、実は密接にかかわっていることに気づいてほしい」と期待を寄せる。

 さらに、ファッションを切り口にした「エシカル(ethical/ 倫理的)」消費にも着目。フェアトレード専門ブランド「ピープル・ツリー」やNPO法人の関係者らによる講演、グループワークなども積極的に企画し、その可能性を学生とともに探っている。

 「自分の着ている洋服の素材や染色方法を調べることで、食べ物だけでなく着る物にも農薬が必要とされている現実を知る学生もいます。この過程を通して、かわいい、安い、といったキーワードだけでファッションを選ぶことが、環境破壊につながる危険性を実感できるはずです」観光やファッションを学びの切り口とすることで、アパレル業や観光業への就職を視野に入れる学生も増えてきた。

 「残念ながら社会貢献意識や地域貢献意識だけでは、卒業後のキャリアを築くことは難しいのが現状です。大学での学びをビジネスといかにマッチングさせていくか?教育が持つ可能性を、これからも探っていきたい」


focus

“百聞は一見にしかず”
実体験を通して理解を深める

 「人の考え方や文化、価値観は一つではありません。そこに気づくことが複眼的思考の第一歩」と語る。

 そのためには異なる意見にもしっかり耳を傾けてほしいと、学生たちに伝え続けている。「たとえば環境問題に関しては、さまざまな主張を目にする機会があります。一つの情報をうのみにするのではなく、誰が、どのような趣旨で主張しているのか?それを裏づける根拠は何か?引用の出典先は信用できるか?疑問を洗い出し、調べたり考えたりする姿勢が、より深い理解につながるのです」

そんな岩本准教授が重視しているのが、フィールドワーク。多様な価値観や文化を直接見て、触れることのできる絶好の機会だ。

「先日も卒業研究指導の一環で、福岡と山形を調査してきました。まさに“百聞は一見にしかず”です。現地まで足を運んで地域の状況を見聞きすることで、初めてわかることもたくさんある。実体験を通して、考えるきっかけを学生に提示することを心がけています」

神奈川県の大磯町環境審議会の会長を務めるなど、地域の環境政策にも積極的にかかわっている。

「これからも環境問題と地域、学生をつなげる役割を担っていきたい」

いわもと・ゆたか

1970年神奈川県生まれ。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科学校教育学専攻修了。博士(教育学)。2008年度に東海大学に着任。13年度より現職

Key Word 『エシカル消費』
環境や社会に配慮した製品やサービスを選んで消費すること。環境に負荷をかけたファストファッションやファストフードは選ばないなど、消費によって企業にプレッシャーをかけ、その行動を変革させる新しい流れ。エコ(eco)の考え方を含んだ新たな選択肢として、日本でもここ数年で広まってきた。

(記事提供:「東海大学新聞」2016年4月1日号)

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