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クローズアップ研究室

臓器線維症の研究を加速
生細胞の可視化システム導入
特別編 大学院医学研究科マトリックス医学生物学センター

2016年12月15日掲出

 がんや肝硬変など多くの内臓の病気の発病や進行には、細胞外マトリックス(細胞間物質)の蓄積によって臓器が固くなる「臓器線維症」が大きくかかわっている。そのメカニズムを解明し、診断マーカーや治療薬の開発につなげることを目指して2014年度に伊勢原校舎に開設された大学院医学研究科の「マトリックス医学生物学センター」。9月には最新の研究機器が導入され、実験施設の本格的な運用が始まった。

『生きた動物の腫瘍などの状態を外部から観察する「生体イメージングシステム」に加え、生きた細胞の発現分子を観察する「生細胞イメージングシステム」=写真右=と、小動物の肺活量などを測定し、線維化の状態や治療効果を把握する「小動物用呼吸機能解析装置」=写真左=を導入。3つの研究機器を組み合わせることで、精度の高い研究を効率的に行う』

 「マトリックス医学生物学センター」の研究拠点として整備された施設は、動物実験室と細胞実験室、データ解析室のほか研究室、資料保管室などで構成され、研究機器が機能的に配置されている。

 その核になるのは、9月に導入された、細胞を安定した環境下で培養しながら観察できる「生細胞イメージングシステム」と動物の肺機能を測定する「小動物用呼吸機能解析装置」。さらに、生命科学統合支援センター動物実験室に設置済みの機器に昨年度高機能化を図った、動物の腫瘍などの状態を生きたままで外部から観察できる「生体イメージングシステム」だ。

最新機器で診断や治療法の開発へ

 センター長の稲垣豊教授(医学部)は、「3つの機器を組み合わせることで細胞レベルから個体レベルまで、ミクロとマクロの双方の視点から細胞外マトリックスが引きおこす線維化の状態や治療効果をより正確で効率的に観察できるようになった」と語る。

 同センターの目的は、臓器線維症のメカニズム解明から薬剤や治療法の効果検証までを一貫して手がけることにある。

 「糖尿病などは血液検査で病状を判断できるのですが、この方法だけでは臓器線維症の状態は診断できません。そのため、本センターに設置した機器を使って臓器が線維化していく状況や薬剤の投与による変化を詳細にイメージングする(見る)ことが不可欠なのです。複数の機器を組み合わせて多角的な視点から分析することで、病態をより深く理解することが可能になり、飛躍的な研究の進展が期待できます」

世界を牽引する研究基盤をつくる

 同センターは、稲垣教授が研究代表者を務める「臓器線維症の病態解明と新たな診断・予防・治療法開発のための拠点形成」プロジェクトの一環で設立。文部科学省の「平成27年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の採択を受けて研究を進めている。

 医学部の基礎系研究者や臨床医だけでなく、工学部の研究者らとも連携して共同研究を推進。遺伝子組み換えマウスの高度な作出技術を持つ研究者や高分子超薄膜を用いた次世代医用技術の開発に取り組むマイクロ・ナノ研究開発センターなど学内の他の先端研究機関とも協働している。3月には、プロジェクトメンバーである住吉秀明講師の研究グループがミズクラゲのコラーゲンの皮膚再生効果を実証するなどの成果をあげてきた。

 「さまざまな臓器の線維症を系統的に研究し、診断・治療法の開発をスピーディーに進めるためには、基礎研究者と臨床医による共同研究の推進が欠かせません。精度の高い研究を効率よく行い、研究開発を加速させたい」と稲垣教授は語る。

 9月29日に行われた新規導入機器の操作説明会には多くの研究者や医師らが参加。実験機器をメンバー以外の研究者にも広く開放している。

 さまざまな病気におけるマトリックスの重要性が認識されるようになり、日本で唯一のマトリックスに特化した研究拠点として、学内外からの期待も大きい。

 「東海大の強みを生かし、臓器線維症分野において世界を牽引する研究基盤を形成したい。それが私たちの目標です」


focus

共同研究を推進し、若手研究者を育成

センターの研究機器を説明する稲垣豊教授

 マトリックス医学生物学センターでは、共同研究の推進や若手研究者の育成を目的に、定期的に勉強会を開いている。

 毎月第2火曜日にはセンターの研究者を中心に「ランチョンミーティング」を実施。共同研究者らを含め、毎回30人ほどが参加する。

 「これまでは各グループの研究紹介と情報交換を主体としていましたが、プロジェクトも2年目の後半に入り、今後は、各自が研究の進捗状況や解決すべき課題を発表し、意見を交換しながら研究を深めていく勉強会にしたい」と話す。

 5月には「公開研究報告会」を開催。多くの研究者らが参加する中、プロジェクトの目的や活動を紹介し、6テーマについてセンターの若手研究者が成果を発表した。さらに、東京医科歯科大学の和氣健二郎名誉教授をはじめ、国内外で活躍する臓器線維症の研究者を招いたセミナーも定期開催している。

 「若手研究者を育成し、次世代のマトリックス研究を担う研究者を一人でも多く輩出したい。同時に、学内外の研究者との共同研究を推進し、マトリックスに関する研究を活性化させ、新たな学問の潮流をつくりたいと考えています」

Key Word 『細胞外マトリックス』
コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など、細胞同士をつなぐ「糊」として、体の組織や臓器の形体保持に必須の役割を果たす細胞間物質。組織に過剰に沈着すると肝硬変などの臓器線維症に至る。近年、細胞外マトリックスは単に組織形態を保持するだけでなく、細胞の発生・分化・増殖・老化などにも深くかかわっていることが明らかになり、次世代の重点研究分野として注目されつつある。iPS細胞やES細胞を用いた再生医学や再生医療においても重要な研究対象となっている。

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