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クローズアップ研究室

難民問題の解決策を探る
EU各国を比較分析
政治経済学部政治学科 武田 健 講師

2017年2月1日掲出

 2011年以降、シリア内戦などによりヨーロッパ諸国に流入する難民の数は増加し、その数は第二次世界大戦後、最大規模に達すると推定されている。欧州連合(EU)は、加盟国が分担して難民の受け入れを進めているが、各国の足並みはそろわない。EU諸国間の外交を専門とする政治経済学部政治学科の武田健講師は、その原因を分析し、解決策を探ろうと研究を進めている。

難民の受け入れに積極的なのは、人権意識が高い国、過去に移民や難民を多く受け入れてきた国、ムスリムが社会に溶け込んでいる国、労働人口の割合が減少している国。一方、政権を握っている中道右派・保守政党が、極右政党の台頭の脅威にさらされている国は消極的

 「紛争や迫害を逃れ、命の危険を冒して来た難民を速やかに受け入れる――それが理想だとわかっていても、実践するのはかなり難しい」と武田講師は話す。

 特に2014年以降、シリアをはじめアラブ・アフリカ諸国からヨーロッパを目指す難民が急増。15年、EUは人権擁護の基本理念のもと、流入の玄関口となったイタリアとギリシャに滞留する庇護希望者16万人を、加盟国で分担して受け入れることを決めた。

 「この決定に比較的前向きなドイツやスウェーデンに対し、ハンガリーやスロバキアなどはかなり消極的です。国によって対応が異なる原因を分析することは、より有効な受け入れ策を見つけ出すために必要なのではないかと考えました」

2つの要因が受け入れのカギ

 武田講師は研究を進めるにあたり、EU各国の政党の勢力分布や労働市場、民族構成、人権意識などから、難民の受け入れ姿勢について6つの仮説を設定=図1参照。各国の政治動向や資料を詳細に分析し、カギとなる2つの要因を導いた。

 一つは、イスラム教徒(ムスリム)が以前から身近な存在だったか否か、もう一つは、右派政党間の競争関係だ。

 「ムスリムの住民が少ない国では、突然多くのムスリムを受け入れることに対し、文化的、社会的な抵抗がある。また、移民や難民の排斥を声高に叫んでいる極右政党の存在も、政府の難民受け入れ政策を消極的にする効果があるようです。つまり、極右政党と支持層が重なる保守的な中道右派政党が政権を握っている場合は、極右政党に選挙の票や支持を奪われることを恐れて政府が難民受け入れに消極的になってしまうのです」

 反対に、与党が左派系の国や、ムスリムが多く住んでいる国は受け入れに寛容な傾向があるという。

 武田講師はこの研究を、小山晶子准教授(東海大学)や中井遼准教授(北九州市立大学)らとともに進めてきた。「今後は、関係者への取材や事例研究などを通じて検証を重ね、分析をより精緻なものにしたい」と話す。

難民問題はEUの試金石

 EUには、現在28カ国が参加。難民問題はもとより、経済、通貨、環境保全、安全保障、テロ対策などさまざまな分野で連携を進めてきた。

 「戦争を繰り返してきた各国が、人種や言語の違いを乗り越えて平和を構築してこられたのは、話し合いを放棄せず、一つひとつの課題を解決してきたから。その経験から学ぶことは多い」と武田講師は話す。しかしEUは現在、ユーロ危機やイギリスの離脱といった新たな問題を抱え、結束が弱まりつつある。

 「EUには互いの立場を尊重しながら合意を目指すという共有された行動原則がありましたが、ここ数年、そこから逸脱する国が出ている。その理由は、欧州全体が政治の転換点にあるからと考えられます。難民問題の解決はEUの今後を占う試金石の一つなのです」

 「難民の受け入れは、日本にとって“対岸の火事”ではない」と武田講師。「ヨーロッパを研究することで、日本をはじめ世界各国が、難民や通貨、安全保障などの諸問題にどのように向き合うべきかを考える一つの手がかりを提供できればと思っています」


focus

生活に直結する政治学 その面白さを伝えたい

 「子どものころから父親の傍らで、テレビの政治ニュースを見ていた」という武田講師。そのせいか、「ごく自然に政治に興味を持った」という。

 早稲田大学の恩師の影響でEUの政治を専攻。「どうしても研究者になりたい」と考えて同大学院の博士課程を中退し、英国ブリストル大学の大学院に留学した。

 当初は語学に自信がなく、厳しい課題に追われるつらい日々。そんな中、大好きなサッカーが救いになった。「週に一度プレーすることで、大学院の仲間と打ち解けていくことができました」

 留学直前に結婚し、妻を伴って渡英。2年後には子どもが生まれ、「研究者として自立しなければ」と、研究、論文執筆に必死で取り組んだ。

 「特に興味深かったのは、政治家や外交官への取材。申し込んでもほとんど断られ、会えても有益な情報を得られないことも多いけれど、報道や資料からではわからない貴重な情報を得られることがある。それが直接話を聞くことの醍醐味」と目を輝かせる。

 「自分たちからは遠い世界のようですが、実は生活に直結する問題を解決する過程を知るのが政治学。その面白さを学生たちと分かち合いたい」

たけだ・けん

1978年山形県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院修士課程を経てイギリス・ブリストル大学大学院博士課程修了。博士(政治学)。

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