広い視野持った理系の人材育成が目標 サイエンス・マイスター育成プログラムについて聞く

 東海大学は、科学技術立国を目指して文部科学省が公募した「理数学生応援プロジェクト」の採択を受け、今年4月から「サイエンス・マイスター育成プログラム」をスタートさせた。理学部や情報理工学部、工学部、教養学部人間環境学科(自然環境課程)の学生が、学部学科の枠を超えて最先端の高度分析機器の原理と使い方を学び、さまざまな課題を科学的に分析し、その成果を広く発信しようという画期的なプログラムだ。背景には、しっかりした歴史観、世界観、人生観を持った研究者を育てるという建学の理念がある。サイエンス・マイスター育成プログラムの推進・運営委員会副代表の内田晴久教授(教養学部)と、連携・協力委員会委員長の利根川昭教授(理学部)に、サイエンス・マイスターについて聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 山手秀之】

--サイエンス・マイスターとは、どのような資格なのですか。


内田教授

 内田教授(以下、内田) 本学、湘南校舎17号館には、研究支援・知的財産本部が管理する高度物性評価施設があり、「透過型電子顕微鏡(FE-TEM)」や「集束イオンビーム加工観察装置(FIB)」など、数千万〜数億円する機器がそろっています。通常なら大学院生でもなかなか扱うことができない高度な機器ですが、学部1、2年次の学生がこれらの機器に触れてもらって、扱い方に習熟し、それをもとにした研究を行って20単位を取得すると、副専攻※の修了が認定されます。さらに「サイエンス・マイスター認定ゼミ」を受講し、学会などで研究発表すれば、本学独自の「サイエンス・マイスター認定証」が与えられます。20単位の取得には3年かかりますが、学部生のうちに認定証を受けることも可能です。現在は学部1〜4年の31人が受講しています。

 利根川教授(以下、利根川) まだ、始まったばかりのプログラムですが、6月の「高度科学技術入門」の講義では、X線などを利用する放射光学分野に関する実験施設や研究についての紹介後、分析機器に精通し「オペレーター」としての認定を受けた大学院生らの指導の下、電子顕微鏡などを使った体験実験をしました。物質の種類や量を数分で解析できる装置などに触れた受講生は、知的好奇心や学習意欲がますます高まったようです。



--どうして、このプログラムが生まれたのですか。

 内田 高等学校では、理系分野の科目に力を入れているところは少なくありません。中には、文部科学省の科学技術人材育成支援として、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に認定された高校もあり、そこで先端科学に触れ、科学への探究心を抱いて大学に入学して来る学生も増えています。しかし、入学後、従来の制度では、1、2年次は基礎や教養科目が中心となり、3年次からようやく各専攻に分かれて専門的な分野を学び、実験を行うという流れでした。入学した直後からでも、高校時代までに経験した知的好奇心、科学へのワクワク・ドキドキ感を持ち続けてほしい、という考えから生まれたのが本プログラムの試みです。現在の受講生は、SSHの経験にかかわらず意欲の高い学生が多く集まっています。

--背景には、東海大学の建学の理念があるそうですね。

 内田 本学を創設した松前重義(1901〜91)は、東北帝国大学で真空管の研究をしていました。一方で、無教会主義を唱えた宗教家、内村鑑三(1861〜1930)の聖書研究会に通い、あるとき、内村の著書にもなった「デンマルク国の話」に感銘を受けたといいます。プロイセン(ドイツ)との2度の戦争に敗れたデンマルク(デンマーク)は、領土を奪われ、荒涼とした土地しか残らなかった。しかし、そこに国民高等学校を作り、青年に科学的な視点と、その社会での役割等を教えていくことを通して、教育による新しい国づくりを成し遂げたのです。松前は、独創的な科学技術を持った人材育成にも、同様に高い理想を持った新しい教育が必要だと感じたといいます。

 日本で「科学技術」という言葉が初めて使われたのは、約70年前の1940(昭和15)年、全日本科学技術団体連合会の発足時と言われ、松前も創設者の一人です。松前は、逓信省(後の郵政省、現総務省)に入り、戦後も衆議院議員として原子力基本法や科学技術基本法の成立にかかわりました。法科出身の官僚が主流を占める中、松前は確固たる世界観、歴史観を持ったエンジニアを育て、科学技術を社会に役立てることのできる人材育成の必要性を強く感じたのです。それが東海大学誕生のきっかけとなっています。

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