インタビュー:工学部・木村英樹教授 ソーラーカーレースで連覇 学生は社会で必要とされる力を身につける

 路面に引かれた赤い計測フィニッシュラインを東海大学のソーラーカー「Tokai Challenger」(1人乗り3輪)がトップで越えた。拍手とガッツポーズが乾いた大空に吸い込まれた。10月、オーストラリアで開かれた世界最大級のソーラーカーレース「ワールド・ソーラー・チャレンジ」で東海大チームは連覇を果たした。監督は工学部電気電子工学科の木村英樹教授。東海大チャレンジセンターの活動の一つ「ライトパワープロジェクト」のアドバイザーでもある。木村教授に取り組みの過程や学生がプロジェクト活動を通じて得たものについて聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 浜田和子】

--ソーラーカーレース挑戦への経緯を教えてください。

 木村教授(以下、木村) 1991年に東海大学でソーラーカーを開発するというプロジェクトがスタートし、92年に1号車「かもめ50号」(2人乗り4輪)が製作されました。私は95年に大学教員となり、96年からソーラーカーのプロジェクトに参加しました。2004年までは理工系の研究室の連合チームということでソーラーカーチームは運営されてきましたが、06年からはチャレンジセンターのプロジェクトチームという形で大会に出場しています。

--「ワールド・ソーラー・チャレンジ」では連覇を果たしましたが、苦労したことはありましたか。

 木村 大変だったのは、開発している時に3・11の東日本大震災があったことです。節電のため夜間の作業ができず、活動は1カ月ぐらい滞り開発が遅れてしまいました。部品も入手しづらくなり、調達の手配をしながらマシンの性能を向上させなければなりませんでした。たとえばMPPTという電子基板の調達で、太陽光発電を制御する回路の新規開発ができなかったため、09年型のソーラーカーから外して調整したものを11年型車両に装着するという対応を選択しました。

 レースまでに一番足りなかったのは時間です。車体の形状を変えてみようといろいろ模索したのですが、残念ながら新しい形を見出すことができず、09年の車体をベースにしたマイナーチェンジという形で車両を製作しました。我々のソーラーカーはルーフが三次元曲面、つまり中央が高く四方がなだらかに下がる立体的な曲面になっているのですが、ライバルチームは板を上下に湾曲させたような二次元曲面のものが多かったですね。うちは空気抵抗を減らすことを優先して作りました。09年のクルマ も3次元でしたが、高さを50ミリ下げたり幅を50ミリ縮めたりなど、サイズを小さくして車体を軽くしました。

--レースでは初日からトップだったのですか。

 木村 はい。ですが勝敗は最後の最後までわかりません。ゴールラインを切るまで、途中でパンクや事故が想定されるので安心はできないのですが、実力的に勝っているかなと思ったのが初日午後の時点です。マラソンと一緒で、走っていると相手の息づかいもわかってきます。我々は一度抜かれまして、抜いた方はそのままリードを広げるのが一般的ですが、相手はペースを上げるどころかむしろペースを落としてきました。それで性能的にもう余裕がないのだなと感じ、追い越してみたら抜き返しにくることもなく、必死についてきているだけだと感じました。

 5日間も走っていると体力も限界なので、優勝して喜ぶより「やっと終わった」と、胸をなで下ろす感じです。「やったぞ」というのはその時はなかったですね。ライバルチームには「レース準備の時間がなくて大変だ。勝ち負けより、レースに間に合うか間に合わないかだ」という話をしていました。今年は震災と原発の事故があった年だからこそ、我々のソーラー技術を示す必要があると思い、頑張って臨みました。

--学生たちはどんな作業をするのですか。経験することにより学生はどう成長するのでしょうか。

 木村 まずレースに行くまでが学生にとって大きな課題です。班に分かれて分担で作業を進めます。製作系では組み立て作業をする機械班と、計測機器や発電関係を担当する電気班に分かれ製作を進めます。事務的な部分ではロジスティクスと広報、会計などの担当に分かれて準備をします。ロジスティクスは荷物を船で運ぶ手配や現地の宿泊先の手配をしたり、検査証や技術証明書、安全証明書など、大会本部との分厚い書類のやりとりをしたりします。広報は「facebook」やホームページから情報発信をしたり、チラシを作成したり、それぞれの担当でいろいろな作業がありますね。機械班でかつ会計とか、役割が重複しているメンバーもいます。たとえばマネジャーの瀧淳一君(工学部動力機械工学科3年)は、学生の代表であるけれども機械班も担当し、ロジスティクスも担当しています。

 現地ではソーラーカー以外にエスコートカーやサポートカーが必要です。トラック1台と乗用車が5台。ソーラーカーを入れて計7台。遠征チームは学生が18人、教職員が2人、OBが3人、企業から2人の総勢25人です。30人ぐらいのチームが標準なのでちょっとコンパクトな体制です。遠征費がかかることや、学生が授業期間中でもあるため、できるだけ少人数に絞りました。

 初めて一連の経験をした学生にはインパクトがあったようです。これまでマイペースに過ごしてきた学生も、工程管理などのマネジメントをしっかりやらなければ、という自覚が芽生えてくるようで、当初は時間に間に合わなかった学生が、後半は改善され間に合うようになるなど、成長が感じられました。学生気分でやることは、もはや許されません。企業が最先端の技術で開発したものをお預かりしてレースで試すわけですから、我々が使い方を失敗したら相手の企業に泥を塗ってしまうことになります。責任を持って取り組んでいく必要があるため学生はプレッシャーを感じるでしょうが、その分成長につながっていくのではないかと思っています。

 仮に誰かがミスをするとチーム全体が大変なことになることもあり得ます。だから自分が任された部分はしっかりやるし、任されていない部分に関してもフォローできるよう余裕を持て、と私は学生に言ってきました。余裕を持たないと隙間(すきま)に何かが落ちてしまいます。野球のポテンヒットのように、誰も拾わない場所にものが落ちると大事に至るケースがありますので、守備範囲を広く持つことが大切です。この取り組みで学生は目配せや気配りが必要になり、自然に学ぶことになると思うのです。こうした社会的実践力 を強化するチャレンジセンターの取り組みが、ソーラーカーレースでも生かされています。そういった部分が企業の採用担当の方から高く評価していただく結果につながるのだと思います。

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