インタビュー:映像制作から学ぶメディア・リテラシー 文学部広報メディア学科 五嶋正治准教授

 IT(情報技術)が進化し、通信環境が整備されたことで、パソコンやスマートフォンを使って、誰でも簡単に映像作品を制作して、公開することができるようになった。多くの人に向けて情報を発信するのは楽しい半面、社会的な責任も重い。映像制作のプロセスを通じ、コミュニケーション能力を身につける「メディア・プロダクション・スタディーズ」の研究を始めた、東海大学文学部広報メディア学科の五嶋正治准教授に語ってもらった。【構成・毎日新聞社デジタルメディア局 岡礼子】

 ◇映像制作を教育に

 教員になる前は、ドキュメンタリー制作の現場にいました。02年に、高等学校の必須科目として教科「情報」という授業が全国で開始される時に、「メディア・リテラシー」を基本になる実践授業のカリキュラム作りに携わり、仕事をしながら、非常勤講師として教壇に立つことになりました。映像制作を授業に取り入れている実践例は日本国内では多くなく、カナダの事例を基に、子どもたちにメディアの良し悪しを判断する力を身につける実践としてカリキュラムを作成しました。

 私は映像制作の現場にいた人間でもありましたので、作り手としての思いも理解しているつもりです。1枚の報道写真や、60秒間のテレビCMを教材にして、そのメディアの発信しているメッセージや感動、そして怒りといった作り手の立場での思いを読み解く授業を行っています。メディアを批判的に読み解くだけでなく、人の心を動かすコンテンツを作れる人間になってほしいと思っています。東海大学の広報メディア学科では、「社会的に価値のあるメッセージを創造・発信できる送り手の育成」を基本に掲げ、映像をつくるだけでなく、社会に発信する責任についても学ぶ取り組みをしています。

 ◇教育現場からドキュメンタリー番組を発信する意味とは

 学生が企画から立案し、取材、編集、仕上げ、そして公共テレビメディアに放送を行うプロジェクトを2001年から開始して、60番組を超える放送を継続しています。2010年からは、その配信するケーブルテレビ局も全国14局にまで広がっています。

 毎回、社会的なテーマを学生の視点で制作し放送していますが、学生たちにとっては、自分たちが番組を通じて発信する責任の重さ、メッセージの大切さ、言葉の重みを日々番組制作を通じ学んでいます。

 昨年の東日本大震災以来、いくつか被災地を訪れた番組を制作しました。15分のドキュメンタリー番組に挿入するナレーションは、それ程多くない原稿でした。しかし、その録音には3時間という時間を費やしました。それは、受け手の立場に立って慎重に議論する時間が必要でした。

 録音を終え、「言葉の一つ一つを慎重に考えた経験は初めてです」と疲れた顔でつぶやく学生に「所属の学部はどこだっけ?」と知りながら尋ねると「『文学』部です」とにっこりと答えた。なかなか遭遇できない、学生と教員の信頼関係の始まりの瞬間と思えました。

オピニオンの一覧