特別対談「チーム医療の推進」を目指し、新たな連携

 7月1日、東海大学医学部・大学院医学研究科(神奈川県伊勢原市)と武蔵野大学薬学部・大学院薬学研究科(東京都西東京市)の学術交流に関する協定が締結された。さまざまな職種の医療従事者が連携したチーム医療の重要性が増す中、両大学は互いの強みを生かし、教育、研究など多方面での交流を進めていく。「ぜひ武蔵野大学さんと手を携えたかった」と話す今井裕・東海大学医学部長、「すばらしい話をいただいた」と応える榎本武美・武蔵野大学薬学部長に協定の狙いと展望を聞いた。【聞き手・毎日新聞デジタルメディア局 奥野敦史】

 

 --協定締結を実現した現在の思いは。

 今井学部長(以下、今井) 東海大学は総合大学ですが薬学部がありません。私たちの研究の柱は現在、ゲノム、再生医学、そして創薬で、特に難病や悪性腫瘍の薬の開発に力を入れています。そもそも医学と薬学は切り離せないものですし、薬学の高度な知識を持つ先生方に我々の研究に参加していただければ、もっとうまく進むだろうという思いがありました。

また国の政策として「チーム医療の推進」があります。医師、看護師、薬剤師などが、それぞれの役割をきちんとこなし、チームで質の高い医療をするということです。これまで大学病院の薬剤師は調剤室の窓口で応対することが主な業務でした。しかし、薬の専門知識を持つ薬剤師が、病棟で患者に処方している薬が適正かを判断してこそ、初めて医師との連携がとれるはずです。これらの課題を解決するには、薬学部との連携が必要でした。武蔵野大学とパートナーシップが組めたことを本当にうれしく思っています。

 榎本学部長(以下、榎本) 今井先生のお話の通り、薬剤師も病院の中でチーム医療の一員として活躍していく必要があります。さらに地域医療、在宅医療でも他職種とチームを組んだ活動が不可欠です。我々には医師、看護師と連携ができ、薬学の知識を生かせる学生の育成が責務でした。協定でそのきっかけができたことをありがたく思っています。

  武蔵野大学は「薬学研究所」を持ち、薬学分野の基礎研究にも力を入れています。今後、医学部と連携することにより医療の現場、ニーズに合った創薬の研究を進めることができるでしょう。この点でも有意義な連携になると思っています。

 --協定締結に至る経緯を教えてください。

 今井 実は非常に短期間で決まりました。今年に入り薬学部との提携を目指して、さまざまな検討をしました。武蔵野大学にお願いした理由は、まず東海大学とよく似た建学の精神を持っている点です。武蔵野大学は仏教を基礎に、カリキュラムにも「人間関係学」や「人間学」などの授業が多数あります。東海大学も人間教育、人格教育に力を注いできた歴史があります。その共通点が大きな魅力でした。

 2番目の理由は、どこの大学とも連携していなかったこと。そして3番目が学生の学力が高い点です。ここしかない、と決めて3月16日、武蔵野大学に初めて榎本先生を訪ね、すぐに話がまとまりました。

 榎本 我々も医学部と連携せねばならないと考えていたのですが、近隣の医学部は他大学と既に連携をしていて、様子見だったんです。正直なところ、東海大学は地理的に私たちの候補に入っておらず、それ以前にこちらがお願いしても受けてもらえないのでは、と思っていました。

 かなり頭を悩ませていたのですが、3月16日、今井先生がおいでくださり、その場で「ぜひとも」とお願いしました。

 --締結まではトントン拍子ですね。今後の取り組みもかなり深いものができるのでは、と期待します。

 榎本 すでに連携の動きが出ています。武蔵野大学の学生が東海大学医学部付属病院薬剤部を見学させていただき、来年度の採用試験を受けることになりました。

 今井 武蔵野大学の学生さんを来年の病院実習に受け入れる準備もしています。また私たちから武蔵野大学にお願いしているのは、東海大学の各病院で働いている薬剤師を大学院に受け入れていただくことです。経験を積んだプロもより専門性を高めるキャリアアップが必要です。能力が高くてやる気のある現役の薬剤師が、より高いキャリアを積む環境が東海大学にはありません。武蔵野大学の大学院で働きながら学位を取得できれば、彼ら個人だけでなく病院薬剤部の質を高める効果も生まれます。

 榎本 武蔵野大学の大学院博士課程には元々、社会人として働いている薬剤師を受け入れて教育するコースがあります。長年の実績を持っていますので、レベルの高い教育を提供できると思います。

 --両大学の連携の効果が期待できる場の一つが、質の高いチーム医療の実現です。多くの職種が関わるチーム医療では、患者さんはもちろん他職種とも密な交流ができるコミュニケーション能力が必要ですね。

 今井 その通りです。東海大学には医学部の全学年に「医師学」というカリキュラムがありますが、これがコミュニケーション能力を育てる重要な教育なんです。

 例を挙げると、1年生の講座の中にはアナウンサーや航空会社の接遇教育担当の方を講師として迎え、話し方や応対に関する考え方を学ぶ機会があります。2年生は地域の福祉施設での約2週間の実習で介護の仕事を体験し、コミュニケーションが言葉だけではないことを学びます。医学知識がかなりついてくる3年生になると、専門のトレーニングを受けた模擬患者を相手に実際の診察のような医療面接を通じて臨床を学び、4年生は更に模擬患者の検査データを分析して診断をします。5年生からは「病院実習」で実際の診療に参加します。各段階で、コミュニケーションのスキルを磨き続ける、これは東海大学の医学教育の大きな特徴です。

 榎本 医療従事者のコミュニケーションの基盤は「命をどのようにとらえるか」という視点にあるのではないでしょうか。武蔵野大学は大正時代の仏教学者、高楠順次郎博士が設立した仏教系の大学です。仏教にある「すべての命を大切にする」という考え方をベースに、コミュニケーションの基盤を作っていく、というのが私たちの考え方です。

 具体的には1年次から「仏教概説」という授業で、学生自身に命について考えてもらいます。また「自己の探求」という授業では「自分は何をしたいのか」「医療人としてどうあるべきか」を考え、自分を見つめる時間を持たせます。上級学年に進むと「医療倫理学」「死生学」など、人の死を考える時間もあります。グループディスカッションや学外実習など実践的な授業も加え、「慈悲の心を持った医療人を育てる」という私たちの学部の理念に沿った、患者さんに寄り添う心を持った医療人を育てたいと思っています。

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