早寝早起きで生活改善、心と体の活力アップ:東海大学体育学部 小澤治夫教授

 「早寝早起き朝ご飯、テレビを止めて外遊び」。東海大学体育学部の小澤治夫教授は、元気で意欲的な子供を育てるために、規則正しい生活習慣を身につけることが不可欠だと説く。クラーク博士の「Boys, be ambitious like this old man.(少年よ大志を抱け。この年をとった私のように)」を座右の銘に掲げ、率先して体を動かす。63歳の今も「腕相撲は高校生に負けない」ことが自慢だ。体力低下が言われて久しい現代の子供たちが小澤教授のような元気な大人になるにはどうすればいいか、小澤教授に聞いた。【聞き手・毎日新聞社デジタルメディア局 岡礼子】

 --子供たちの変化に気づいたのは、どのようなきっかけですか。

 90年代半ば、高校でサッカー部を指導していて、生徒がすぐに「バテる」ことに気づきました。例えば、スタミナもスピードもあるはずの2年生の男子生徒が試合で走れない、動けない。最初は怒ったのですが、本人は「一生懸命やっている」と言う。ふと頭をよぎったのは、「貧血ではないか」ということでした。病院で検査をすると、血中ヘモグロビン値が低く、貧血でした。それでは走れないのも無理はない。まず体を治さないとだめだと話しました。

 同時に、ひょっとしてほかにも貧血の生徒がいるのではないかと考え、検査してみると部員の約4割がヘモグロビン不足。貯蔵鉄と言われるフェリチン、血清鉄の値が低い生徒も含めると、貧血または貧血予備軍が約6割に上りました。貯蔵鉄は、いわば「銀行預金」で、ヘモグロビンが「手持ちのお金」です。運動する時は、ヘモグロビンがあれば使い、なくなると「キャッシュディスペンサー」で下ろします。預金がないのに、ハードトレーニングをするとヘモグロビンを使い果たして貧血を起こしますから、預金があるかどうかが大事なのです。

 この時、貧血の生徒があまりに多くて驚いたので、もっと調べてみようということで筑波大学の鈴木正成教授(当時、2011年に死去)とチームを組み、脳の温度に近いといわれる鼓膜の温度を測りました。生徒が何時に寝て、何時に起きているかといった生活アンケートと併せて分析すると、朝食を食べた生徒は温度が高く、食べていない生徒は低いことが分かりました。また、体温が高い生徒で、通学意欲があるのは約6割でしたが、低体温の生徒では25%でした。

 --なぜ、貧血や低体温の生徒が増えたのでしょうか。

 子供たちが成長するための社会、生活環境が崩壊しているのです。それが体に影響しています。2008年に約1万5000人の小中高生に調査したところ、高校生の2人に1人は午前0時過ぎに寝ていました。私が高校生だった45年ほど前は、平均して午後10時半に寝て、午前6時25分に起きていました(日本学校保健会調査)。早寝早起きで8時間の睡眠時間です。今の高校生は平均して午前0時05分に寝て、午前6時55分に起きています。遅寝遅起きだけでなく、睡眠時間も7時間と1時間少ない。

 減った分の1時間、画面に向かっている生徒が増えていると考えています。画面といっても、テレビだけではありません。パソコン、電子ゲーム、携帯電話などで、今はスマートフォンです。睡眠時間が減れば、朝起きられなくなり、朝食が食べられなくなります。栄養が足りず、貧血になっても不思議はありません。放課後に甘い清涼飲料水を飲んだり、菓子を食べたりして血糖値だけがあがり、ご飯が食べられないことも影響しています。疲れやすく、眠くなりやすく、気力もわいてこない。「体がだるい」「なんとなく」という理由で学校に行きたくない子がたくさんいるのです。

 宿題は面倒で、予習復習もしませんから、今の子供たちの勉強時間がいかに少ないことか。近隣のアジア諸国はもとより、あらゆる国に置いていかれてしまいますよ。今はまだ、家庭と社会に教育力があって、学校が教育機関としての機能を果たしていた時代に育ったわれわれがタフで、経済力がありますから、日本は大丈夫です。でも20年後については危機感を抱いています。30年後はきわめて厳しい状況になっているのではないかと心配です。学校、家庭、社会に、これからの子供たちを健康に育てる責任があります。

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