グリーンツーリズムの魅力と景観 地元の魅力への気づきと誇りが観光客を呼び、まちを活性化

 魅力ある観光地をめざして各地でさまざまな試みが展開されている。農山漁村で収穫体験などや地元の人たちとの交流を楽しむグリーンツーリズムもその一つだ。景観論が専門で観光学部観光学科教授の屋代雅充氏にグリーンツーリズムの今と、景観と観光の関わりについて聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 江刺弘子】

 --日本でのグリーンツーリズムは、いつごろから始まったのでしょうか。

 もともとヨーロッパで盛んな旅行の一形態です。日本では農水省が1992年6月に公表した食料・農業・農村政策に関する方針の中で、「美しい農村空間の形成にも寄与するグリーンツーリズムの振興を図る」としています。95年に農林漁業体験民宿業の振興を中心に据えたグリーンツーリズムの推進を図るための法律が施行され、その2年後の97年には全国で700数十軒もの民宿が登録されたようです。

 しかしこうした国の動き以前にも、各地でグリーンツーリズムと言えるような取り組みが展開され、成功事例も少なからずあったようです。

 --グリーンツーリズムを取り入れることにより、地域はどのように変わりますか。

 グリーンツーリズムはまちづくりもからんできます。まず地元の人が自分の住んでいる所に誇りを持ち、自慢できる、それがないと観光客を引きつけることはできません。グリーンツーリズムはそのきっかけになります。さらに観光客との交流が町や村を活気付け、観光客から「居心地がいい、食べ物がおいしい」とほめてもらうことが、誇りや生きがいにつながるのです。地域に対してプラスの効果が大きいのが、グリーンツーリズムです。

 また景色がいいことも、重要なポイントですね。空が大きいだけでも都会からの観光客は満たされます。地元の人が意外なところに価値があることに気付くには、外(観光客や地域計画者など)の目が必要です。しかしそれは地元の人との交流がないとできません。

 --最近のグリーンツーリズムの傾向は?

 長崎で「さるく」といったまち歩きの取り組みが脚光を浴びていますが、全国各地で歩いて地元を見てまわるガイドツアーが増えています。農村にも見どころはたくさんあるんですよ。私が都市計画マスタープランで関わった山梨県勝沼町(現・甲州市)の例を紹介すると、勝沼には丸い石を積みあげた四角錐(すい)状の道祖神がたくさんあります。道祖神は各地にありますが、その形状はさまざまで、その土地ごとの違いを知るとおもしろいですよ。セギ(堰)と呼ばれる水路や、土蔵の鏝絵(こてえ)、民家の鬼瓦など、着眼点さえ指摘できれば、まだまだ日本固有の観光資源はたくさんあると思います。さらに地元の人が案内してくれると、「ここにあるよ」と普段分け入れないような場所にも行けます。こうした「まち歩き」や「里歩き」と「地元のボランティアガイド」の組み合わせによる新しい観光形態とその取り組みが各地に広がりつつあります。このような取り組みを勝沼では「フットパス」と呼んで、市民が楽しみながら継続的に行っています。

 --9月に熊本でグリーンツーリズムの実習をされたそうですね。

 9月10〜15日に、阿蘇地域に学生8人と行ってきました。男女のグループに分かれて2軒の農家に宿泊し、アスパラの除草と収穫体験をしました。前夜は片方の農家の軒下に集まって両家の人たちとバーベキュー。学生も地元の方々もこうした人同士の交流が楽しいようで、「また来たい」、「また来なよ」と話がはずんでいました。究極的には 「人間対人間」、これが強力な魅力なのでしょう。とくに田舎では、若い人たちが来るのを大歓迎しています。

 宿泊翌日の午前中に収穫したアスパラは夕方、自分たちで調理して食べました。新鮮なアスパラは、味も濃く、ゆでただけでドレッシングなしでもおいしくいただけました。単に収穫体験のみで終わってしまうグリーンツーリズムも多いようですが、自分たちが収穫したものを食べる。そこから得るものは、たくさんあります。各地のグリーンツーリズムでも、ぜひ収穫して食べるところまで、やってほしいですね。

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