色彩計画で港を憩いの場に 企業の自主的努力促す仕組み作り 東海大海洋学部の東恵子教授

 大型コンテナクレーンや倉庫が並ぶ清水港(静岡市清水区)。国際拠点港湾として発展してきたこの港は、産業港ゆえに殺風景で、かつては市民が足を踏み入れることがなかった。しかし今、親水エリアとして年間880万人が訪れ、市民の憩いの場にもなっている。富士山が見える港の景観を生かし、それに調和した人工景観を創出した「清水港・みなと色彩計画」によるものだ。プランの立案から20年間アドバイザーとして関わる東海大学海洋学部環境社会学科の東恵子教授に聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 江刺弘子】

 --まず「清水港・みなと色彩計画」について教えてください。

 清水港は神戸港、長崎港と並び、日本3大美港といわれ、富士山を借景にした美しい港です。この素晴らしい風景を生かすように、建築物・工作物に定められた色を取り入れたのが「清水港・みなと色彩計画」です。

 約500ヘクタールの臨港地区にある建築物、工作物は、シンボルカラーと位置づけるアクアブルーとホワイトを一部に必ず入れることになっています。特徴的なのは、強制力のない仕組みです。計画の実施には事業者の届け出制にしていることです。塗り替えや改築、耐震工事などの時期を事務局に届け出てもらい、その時期にあわせて清水港の風景を創る色彩計画に協力してもらうのです。

 具体的な配色計画は私の研究室で取り組んでいます。企業にはそれぞれCI(コーポレートアイデンティティー)カラーがあり、プランに参画してもらうには多くの課題もありましたが、そこは協力を得やすい色彩構成を提示したり、CG(コンピューターグラフィックス)を用いて具体的なイメージを持ってもらえるようにアドバイスをするなど、企業が参画しやすい体制も整えています。

 --「清水港・みなと色彩計画」に取り組むことになったきっかけは?

 1990年に静岡県清水港管理局企画振興課の声かけで、市民も立ち寄れない産業空間を暮らしの視点から協議する「レディズ・マリン・フォーラム」が設立され、20〜60代の女性23人が集まりました。港湾関係者、アナウンサーなど職種もさまざま。私はその座長を務めました。

 「神戸や横浜、函館のような港になったらいいわね。遊んだり、憩うことができたり、食べたり買い物できる、異国情緒あふれる場所も欲しいね。そんな港になったらいいな」と分科会を作って意見を出し合い1年間、フィールドワークを行いました。その結果を「レディズ・マリン・フォーラムリポート」としてシンポジウムで62の提案をしました。その一つに「みなと色彩計画」がありました。5〜7年に一度、港の建造物は塩害防止のために、塗り替えを行っています。その時期に風景に調和した色を提案できれば、10年たてば富士山に調和した美しい港湾景観ができると考えました。塗り替え費用は、企業の維持管理費で進めていけます。翌年、「色彩計画」を策定する委員会ができました。

 --「みなと色彩計画」は、スムーズに進みましたか。

 色彩計画を策定するにあたり、港の利用者である企業・市民にアンケート調査を実施しました。企業からの回答は「協力できない」が約7割でした。理由は「費用がかかる」「企業カラーがあるから」「本社の意向が必要」など、さまざま。本当のところ「これはだめかな。すすめられることができるのかな」と思いました。

 市民からは清水港の将来像を尋ねたところ、「(旧)清水市のビジョンである国際海洋文化都市としてふさわしい港に刷新してほしい」との意見が多くあげられました。また、清水港をイメージする色として7割が「青系」をあげていました。

 --清水港の色はそこから決まったのですね。

色彩計画配色構成

 色は言葉と同様に色にそれぞれ意味を持っています。「刷新」を意味する色として抽出したのがシンボルカラーになっている「アクアブルー(色票番号・10B7/8)」でした。

 そこで美しい港づくりを進めるためのシンボルカラーとしてアクアブルーとホワイト(色票番号・N9.5)を定め、▽屋根や壁面など広い面積のところに使うベースカラー▽配色全体の中で線や点に使うアクセントカラー▽企業のCIカラーをアクセサリーカラーとして、それぞれのゾーニングごとの配色と構成を決めました。清水港は、コンテナヤード、タンク群、冷凍倉庫群、チップヤード、海水浴場など多機能です。8つの機能ゾーンの特徴を生かす配色になっています。

 富士山や駿河湾など360度の眺望が楽しめる国の名勝地、日本平(標高307メートル)から見る清水港は、本当に日本的な風景が浮世絵のように展開されています。ですから清水港を眺望した時に美しい風景となるように、上屋(港湾倉庫)は風景にとけこむベースカラーと設定しています。また、コンテナクレーンは清水港が日本で唯一、シンボルカラーで配色されています。クレーン(crane)は鶴の意味があります。雪を抱いた富士の頂に映え、本当に鶴が舞い降りたように見え、経済と美しさの象徴「富国有徳の風景」です。

クレーン施工前
クレーン施工後
富国有徳の風景

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