海洋学部海洋地球科学科 久保田雅久教授 海を観察すれば気象が見える 浮遊ゴミ 解決の手がかりにも

 海洋観測から見えてくるもの。それは気候変動などの自然環境や、浮遊ゴミといった社会問題もある。近年、天気の長期予報も海の状態を知ることがカギとなっている。海洋と大気の密接な関係から導きだされるものとは? そして浮遊ゴミ解決の糸口は? 海洋物理学、海洋気象学分野を専門とする久保田雅久教授に聞いた。【デジタルメディア局 江刺弘子】

 ◇海に漂う浮遊ゴミ、社会全体で認識を

--浮遊ゴミの問題は、世界的にも問題ですね。

 ミッドウェー環礁付近は太平洋ゴミベルトと呼ばれ、問題が深刻です。アホウドリはエサと一緒にプラスチックなどのゴミも体内に取り込み、さらに親鳥がヒナにエサとして与えてしまっています。アホウドリのヒナを調べると、80%以上のひながプラスチックゴミをエサとして取り込んでしまっていたという報告があります。ゴミがたまる場所は風や海流によって決まります。そこにはゴミだけではなく、魚の卵や稚魚も集まり、鳥たちにとって食料を得るためには最高の場所となっている可能性があります。そこが人間の出したゴミによって満ちあふれ、鳥たちにとって逆に悪影響を与えてしまっているのです。

--東日本大震災によって生じたがれきも太平洋に流出しています。

 がれきが海に流出していることはわかりました。では、そのがれきが海でどのように移動しているかを実際に見た人はどれだけいるでしょうか。

 桟橋など大きなものが漂着するとニュースに取り上げられますが、それはあくまでシンボルに過ぎませんし、それがすべてを表しているかは疑問です。シミュレーションをやってみると、ほとんどのゴミは海岸に流れ着かず、海を漂っています。流れ着くか、着かないかではなくて、全体量から見ると流れ着くものはほんのわずかであるという認識をみんなが持つべきです。

 がれき問題が大した問題ではないと言っているのではありません。海は広いわけですが、ゴミが増えれば、汚れていくことは確かです。行き着いたとか行き着かないということだけを問題視しているスタンスこそが問題です。

--浮遊ゴミが社会問題としてとらえられるようになったのはいつごろからですか。

 おそらく日本で初めて浮遊ゴミの学術的な調査をやったのは東海大学海洋学部です。1980年代後半、日米交渉の議題の中で、米国から日本漁船の網が流れ着いているとの問題提起があり、その時、日本は答えを持っていませんでした。この時、水産庁が委託研究を東海大学に出しました。海のゴミの分布と、どのように浮遊していくのかの二つが柱です。

--実際にどのような実験、研究をされたのですか。

 ゴミは自分で動くものではなく、海面の流れがわかれば、ある程度、推測が立ちます。海の流れを調べるのは難しいことでした。当時は船による観測データを入手して研究しました。海に広がったゴミは、流れとともに、特定の地域に集まることがわかり、そのメカニズムを1994年に論文として発表しました。

 研究計画の中では、仮想のゴミとしてブイを海に浮かべて、そのブイの動きのデータを衛星経由で受け取り解析しました。ブイ投入後、約10年が経ったころ、ハワイ在住の方から「あなたが流したブイを拾いました」と突然メールをいただき、ハワイまで取りに行ったこともあります。私の予測では海洋浮遊ゴミはハワイの近くに集まることになっていましたから、まあ仮説が検証できたわけです。

--浮遊ゴミ対策で求められることは何でしょうか。

 社会の共通認識として捉えなければいけません。「(海にあるので)自分たちから見えないからもういい」と関知しなくなると、浮遊ゴミはどんどん増えていきます。対馬など日本海側の浮遊ゴミ問題は深刻です。陸に着くと拾わなければいけませんが、高齢化が進んだ地域ではそれすらも難しい状況です。海岸に流れ着くゴミだけでも、すごい量ですが、それの何百倍、あるいは何千倍もの量のゴミが海には浮かんでいるという認識が必要です。

 しかし紛争国では、浮遊ゴミのことなど考えていられません。文化の違いから、ゴミ問題のとらえ方も日本と異なる国もあります。単純に「ごみを捨ててはならない」というのではなく、「戦争」や「文化の違い」を乗り越えて踏み込んでいかないと、浮遊ゴミの問題は解決しないでしょう。

 浮遊ゴミを出す国(原因)と流れ着く国(結果)が違うことで問題が複雑になってきます。日本のゴミは基本的に東へ向かい、ミッドウェーや米国に流れ、中国のゴミは日本へと流れて来ます。こういった浮遊ゴミの移動や集積のメカニズムを科学的に十分理解しないと、世界の海を漂うゴミの問題は解決できませんし、それこそがサイエンスにできることではないでしょうか。

 ◇長期の天気予報は海を知ることから

--次に海洋と大気の関係を教えてください。

 陸上に住んでいる私たちは、天気には多くの人が興味を持つ一方で、海洋を感じるのはなかなか難しいですね。海洋と大気は両方とも地球を覆っている流体で、両者は複雑に関係しています。

 近年、3〜4日の範囲だと天気予報は当たる確率が高くなりました。コンピューターを使った予測技術が進歩し、現在の大気の状態がわかれば、3日先くらいまでの天気は85%以上の確率で推測できます。

 しかし1週間、1カ月後と期間が長くなると、どんどん当たらなくなってきます。それは、それから先の天気を決めているのが海だからです。つまり長時間後の大気の状態を決めているのは海なのです。大気は海に影響を与え、海も大気に影響している。大気海洋相互作用、大気海洋双方向作用などと呼ばれ、長期予報や異常気象、気候変動の問題は海洋と大気を一緒になって研究しないと解決できないことがわかってきました。

--海洋と大気が及ぼす気象の具体例を教えていただけますか。

 台風を例にとりましょう。台風は海面温度の高い場所で発生します。そこにはたくさんの熱エネルギーがありますが、海水が蒸発して水蒸気になるときに海からたくさんの熱エネルギーを奪い、その水蒸気が雨になった時にそのエネルギーを大気中に解放します。台風は移動しながら、下の温かい海水からエネルギー源としてどんどん水蒸気が供給されます。台風が上陸すると勢力が弱まるのは、エネルギー源を奪われるからです。反対に台風は温かい海の上に長く停滞していると、エネルギー源をもらってどんどん発達します。海面と大気の間の熱のやりとりが台風の勢力を決めているのです。

 赤道付近で発生するエルニーニョ現象も大気海洋相互作用によるものです。近年はこの赤道付近の研究に加えて、中緯度の海での海洋と大気の活動も注目されています。

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