椎間板再生医療の実現を促進 細胞の分化の過程明らかに 医学部 酒井大輔准教授

 日本人の約1000万人が悩む腰痛。姿勢の良しあしから心因性まで原因はさまざまだが、主なものは椎間板(ついかんばん)ヘルニアなど、椎間板の障害とされる。実は、椎間板については研究が少なく、分かっていないことが多いという。東海大学医学部の酒井大輔准教授らの研究グループは12年12月、椎間板の幹細胞を識別し、細胞表面のたんぱく質から分化の過程を分析できるようになったとの研究成果を発表した。幹細胞はさまざまな細胞に分化できる性質があり、椎間板の再生医療に一歩を踏み出した。【デジタルメディア局・岡礼子】

--椎間板について、教えてください。

 椎間板は、人間の背骨を形作っている軟骨で24個あり、骨と骨を連結する役割を担っています。体内には顎(あご)関節や鼻骨など、さまざまな軟骨があって、それぞれ構造も組成も違います。椎間板は人体の軟骨では最大で、円盤形をしています。円盤の外側は、繊維でできたチューブのようになっていて、内側にゼリー状の髄核があります。体重に耐えるため、髄核が水を含んで圧力を保つ「タイヤ」のような構造になっているのです。

 ゼリー部分が減ってしまうと、「タイヤ」がパンクしたようにぐらぐらしてきます。そしてある時、重いものを持ち上げようと力を入れた瞬間などに、「タイヤ」に穴があいて髄核が飛び出してしまうのです。これが椎間板ヘルニアです。ヘルニアは、椎間板の変性としては初期の症状で、もっと進行すると、椎間板自体が無くなったり、骨が変形したりします。神経を圧迫しやすい場所にあって、ひとつひとつの神経は腰椎なら下肢、頚椎(けいつい)であれば首や手の運動機能、筋肉、血管の働きまでコントロールしているので、椎間板を傷めると、坐骨神経痛や下肢のしびれといった症状が出てくるのです。

 背骨は、私たちの体で一番重い胸郭と頭を支えて、バランスよく立ったり座ったりするために、S字形に湾曲しています。その形を保つことが大事なのですが、年齢を重ねて筋力が落ちたり、関節が磨耗したりすると、背骨が曲がってしまいます。また、過度に筋力が弱かったり、姿勢が悪い場合には、通常の老化以上のスピードで、問題が生じます。現代は高齢化社会ですから、長く生きることで、さまざまな部位が変形し、腰椎や頚椎の疾患の原因になるのです。

 --一般的な疾患なのに、研究は少ないそうですが、なぜでしょうか。

 椎間板は、人体で最大の「無血管臓器」です。血流がないので、栄養も乏しいですし、細胞の増殖や、修復などの作用が起きにくい。椎間板ヘルニアなどで手術をした患者さんから同意の上、採取した椎間板組織と幹細胞(高い自己複製能力を持ち、ほかの組織の細胞に分化できる未熟な細胞)の割合を調べた研究によると、10代では7、8割が未熟な細胞なのに対し、30代後半になると2割以下でした。一般的には、30代後半を過ぎると、椎間板の中にはポテンシャル(潜在性)の高い細胞はいないということになります。

 そのため、筋肉などの細胞と同じように採取してみても、死んだ細胞がほとんどで、一般的な培養方法では、なかなか成功しません。培養するにもノウハウが必要で、研究がしにくいのです。さらに、椎間板の変性は、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞のように死に至る病気ではなく、ヘルニアを切除したり、背骨を固定するといった対症療法で、ある程度の状態を維持できることも、理由の一つでしょう。

 --そんな中、椎間板に関連する疾患の予防と対策の研究をされているのですね。

 東海大学としては1996年ごろ、私は2000年ごろに研究を始めて、実績を積んできました。研究者も研究論文も少なく、始めは分からないことばかりでした。椎間板の「チューブ」の内側にある髄核の細胞に、ほかの体内組織と同じような修復能力があるかどうか、ということさえわかっていなかったのです。

 昨年末に私たちが発表した研究成果とは、まず椎間板内の細胞を識別し、その細胞の増減や修復をコントロールするニッチ(細胞を囲む環境要因)の一部を明らかにしたことで、これはこれまで世界的に報告がなかったものです。さらに、複数の細胞から幹細胞だけを分離する方法を見出し、細胞表面にあるたんぱく質の組み合わせを調べることで、一番未熟な細胞から、より成熟して椎間板の細胞に近い状態になっていく過程の、どの段階にあるか分かるようになったのです。

 これで、例えば椎間板ヘルニアの手術の際に、特定の細胞がどの程度減っているかを診断できるようになり、それを増やしたり、減らしたり、あるいは活性化する治療のスキームが組めるわけです。椎間板に幹細胞を移植しようとする時も、人工多能性幹細胞(iPS細胞)やES細胞(受精卵からつくる胚性細胞)を注入しただけでは、その細胞が椎間板の細胞に分化していくかどうか分かりません。移植した後で細胞表面のたんぱく質を調べて、椎間板の細胞に近いものに分化したかどうか判断できるようになります。

 椎間板の幹細胞は、自己複製能力が高く、同細胞のクローンからは骨、脂肪など、椎間板以外の組織に分化できることも分かりました。骨折させたマウスに、椎間板の幹細胞を移植すると、その細胞が骨になって機能するのです。さらにポテンシャルが高くて、神経細胞に分化できる細胞も発見しました。将来は、神経を損傷した場合などでも、椎間板由来細胞を保存しておいて、神経細胞として使うことが可能になるかもしれません。また、たいていの場合は、椎間板の細胞は椎間板の内部でしか生きることができませんが、発見した幹細胞は皮膚の下で椎間板の組織を作ることが可能であることも明らかになりました。

オピニオンの一覧