議会制民主主義と選挙 教養学部 新保恵志教授

 参院選が4日公示、21日投開票される。インターネットを使った選挙運動を認める改正公職選挙法が施行された初の選挙となり、注目度も高い。イギリスの議会制民主主義と選挙について詳しい東海大政治経済学部政治学科の秋本富雄准教授に民主政治、選挙について聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 銅崎順子】

 −−イギリスは、日本と同じ議院内閣制の国ですが、選挙制度は似ているのでしょうか。

 まず、異なる点をあげてみましょう。日本は衆参ともに選挙が行われますが、イギリスの選挙は下院のみで、小選挙区制です。日本の衆議院(下院)は小選挙区と比例の組み合わせですよね。次に、イギリスの選挙期間は約1カ月で、日本に比べて長いのですが、選挙費用はかかりません。なぜなら、一人の候補者が使える選挙費用は法律によって上限が設けられており、立候補する際に必要な供託金も安く、買収・供応行為については連座制が適用されるからです。ちなみに、1ポンド=150円とすると、2010年選挙では、選挙年の選挙費用は約600万円、供託金は7万5000円でした。選挙費用をかけられない分、選挙カーを何台も借りたり、電話で支持を訴えることは難しく、各候補者の選挙運動は、ボランティアの選挙運動員とともに、戸別訪問中心で展開されます。日本よりはるかに小規模な有権者7万人の選挙区だからこそ可能でありまた有効な選挙運動なわけですね。いずれにしても、選挙区レベルの選挙風景はとても静かなものです。

 一方で、各政党の本部主導による全国的なメディアキャンペーンは、党首が前面に立って、分刻みのスケジュールで全国を飛び回る大規模なものです。各政党本部の選挙費用にも法的上限は設けられていますが、選挙日の1年前から、全体で約45億円ほどのお金が費やされます。小選挙区制のもと、有権者にとっての下院選挙は、何よりも政権選択選挙、つまりは、英国の将来を誰(どの党首)に託すのかを決める選挙です。だからこそ、メディア空間を主戦場とする党首間の競い合いは激しくなるばかりで、その点は日本も同様ではないでしょうか。ちなみに、2010年には、イギリス史上初めて、主要政党の党首3人によるテレビ討論が計3回行われ、高い視聴率を記録しました。

 --他に制度面で、異なる点はありますか?

 各政党の候補者選びは、公募を軸に制度化されています。また、先ほど申しあげましたように、小選挙区の規模が小さい分、日本に比べると議員の数は多いといえます。しかし、人口 6000万人のイギリス下院の定数は現在650人ですが、人口規模がほぼ同じフランスの下院は577人、人口7500万人のドイツ下院は約600人ですし、イギリスの上院は任命議員がほとんどであるため下院の権限がはるかに強い・・・日本のように、下院議員の大幅削減を主張する意見は、イギリスにはありません。

 実際、日本の国会議員数はアメリカ連邦議会の議員数に比べて多すぎると、よく言われますが、アメリカは連邦国家であり、統治システムそのものが違うので、比べること自体、やや無理があります。アメリカでは連邦議会と同様、州議会にも上院と下院があります(ネブラスカ州を除く)。それを含めると、立法権限を有する(連邦および州)議会の総議員数はどうなるのでしょう。民主政治の原理からすると、議院内閣制で中央集権の日本において、国民自らが国民代表を選ぶ権利を制限し、多様な意見が国会に反映される機会を減らしていいのかとは、思います。

 --イギリスの選挙制度は参考になりますか。

 これまでの話のように、小選挙区制そのものは複雑な制度ではありませんし、「勝者を作る」という明確な制度目的があるので、モデルにはしやすい。しかし、制度の効果がどう現れるかは、政党と社会の結びつきにかかっています。イギリスは小選挙区だけなのに、ここ数回の日本の衆議院選挙ほどに極端な選挙結果が生まれない理由は、そこにあります。イギリスの政党に限らず、ヨーロッパの政党は、長い歴史の中で階級、宗教、民族などの社会亀裂に対応し発展してきました。日本の場合、55年体制成立時はそのような結びつきがあったわけですが、今はどうでしょうか。この間まで政権の座にあった民主党は、当初から、民間労働組合組織の支援を受けつつ、党の基盤づくりに励んできたようですが、うまくいってないように見えます。その意味で、現時点で、かろうじて日本社会とのつながりを保持している政党は自民党だけだと思いますが、今後どうなるのかは、よくわかりません。

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