サメからわかる海の生態系 サメ王国・駿河湾で研究 海洋学部海洋生物学科・田中彰教授

 日本で最も深い駿河湾は、その特有の環境から、世界でも有数のサメの王国として知られている。水中の食物連鎖でトップにたつサメの研究は海の生態系の問題や環境保護にもつながるが、まだまだ秘密のベールに隠されている。40年近くサメの研究をしている海洋学部海洋生物学科の田中彰教授に話を聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 柴沼均】

--5月6日に世界で58例目という貴重な深海ザメ「メガマウス」(大口サメ)の公開解剖が東海大学海洋科学博物館で行われました。1500人もの人が集まり大盛況だったそうですね。

 昨年、NHKスペシャルで「深海ザメ」が放映されたり、国立科学博物館で「深海」の特別展が開かれたりしました。今年もリュウグウノツカイやダイオウイカなどが水揚げされるなどしており、一般の方も深海に関する興味が広がっているのではないでしょうか。

--駿河湾にはどうして「メガマウス」のような貴重なサメがいるのですか。

 駿河湾は地形、海洋構造から海洋生物学的にいって面白く、研究のしがいがある場所です。深いところで水深2500メートルもあり、岸からちょっと行ったところで急に深くなります。一方で、沖合を黒潮が流れており、伊豆諸島にあたって暖かい潮流が入ってきます。また、富士川、大井川、安倍川など大きな河川が複数あり、陸から栄養物が入ってきます。これらが混合して、プランクトンが増殖し、それを食べる生物も増える生産性の高い湾です。海中の食物連鎖で、上で死んだものが下に落ちてくることになりますので、岸に近い深海にもさまざまな生物がすめます。

 サメもかなりいろいろな種類があり、日本で130種類ぐらいいるうちの半分ぐらいは駿河湾にいて、そのなかには深海ザメも多く含まれています。世界の研究機関からの要請で取れたものを送ることもあります。昨年は沖縄で国際的な魚類会議があり、その帰りにここを視察する研究者もいました。世界的に見ても貴重な場所です。ただ、われわれが研究しているから分かってきたことで、相模湾、熊野灘など、ほかにも探せばサメが生息している場所はあるでしょうが、そういった場所は研究者がいないのです。

--サメというと映画「ジョーズ」のイメージがありますが、メガマウスはどのようなサメなのですか。

 メガマウスは大きくて6メートル弱です。大型のサメにはジョーズのモデルになったホホジロザメなど肉食、魚食のものもいますが、プランクトンを食べるものもいます。世界で一番大きいといわれるジンベエザメや、ウバザメはプランクトンを食べるおとなしいサメです。メガマウスは1976年に初めて見つかって、83年に正式に学名がついた新しいサメですが、なぜこんな大きなものが見つからなかったのかという疑問があります。

 大きなサメ、例えばジンベエザメの周りにはカツオやマグロがいるということが漁師に知られていました。また、ウバザメは肝臓が大きく、肝油がとれます。しかし、メガマウスは外洋の中深層でプランクトンを食べるため、漁業との関わりがありませんでした。最近では沿岸によってきて、定置網に入ることで知られるようになってきました。昼夜移動することがアメリカの研究で分かっており、夜間は水深20メートル前後、昼間は150〜200メートルにいます。今回のメガマウスは胃の中からオキアミとサクラエビが出てきましたが、こうしたプランクトンは夜は浅いところにきます。それを追ってメガマウスも昼夜移動することが考えられます。

 メガマウスはゆっくり泳ぎ、歯も米粒大と小さい。他のサメに襲われることもあると思います。しかし、世界に58例しか見つかっていないので、どこで子どもを産んでいるのか、寿命がどのくらいなのか、成熟まで何年かかり、子どもを何匹産むのかなど、どんな生活をしているのかまだまだ分かっていません。データを積み重ねて、何とか研究できないかと考えています。

 メガマウスに限らず、深海のものは獲るのが難しいということがあります。以前は大学の小型舟艇でサメを捕らえて、情報を集めることもありました。最近は熱心な漁師さんから提供されます。しかし、次のステップで1つの生命でも無駄なく使って研究するにはどうしたらよいかという点があります。サメの場合、脊椎骨に輪紋ができて年齢を知ることができますが、メガマウスにも同様に輪紋ができるのか、もし観察されるならそれは年1回形成されるのか、これらを調べるためにはある程度の個体数が必要です。年齢研究以外にも今回は外部の研究者にも試料を供与しました。

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