「人間の安全保障」を軸に社会のあり方を研究 視野は電脳空間にも 東海大学 教養学部 国際学科 旦祐介教授

--東日本大震災との絡みで「人間の安全保障」を説明してください。

 放射能汚染などが原因で、生まれ育った町に帰ることができず、避難所で非業の死を遂げるケースもあるわけです。人間としての尊厳、多数の人たちの安心・安全の課題が大きくなりました。3・11を契機に私たちの視点は、国家中心の考え方ではなく、私たち一人ひとりの安全・安心の見方にシフトしたのではないでしょうか。

 3・11は、原子力発電の意義も議論の俎上(そじょう)に載せました。原発は政府の政策であり、その判断、決定には、科学的なことよりも政治的、経済的なことが多く作用されることもあるのでしょう。確かに人間のあらゆる営みにはリスクがあり、それをゼロにすることはできません。しかし可能な限り減少させることには意味があります。こうした課題をどう乗り越えるかは、私たち全員が地球市民として英知を結集すべき課題です。そこで重要なキーワードが「人間の安全保障」なのです。

--サイバーセキュリティーについても研究されていると聞きました。

 研究対象として私にとっての新しい地平です。グローバルな安全保障の課題であるサイバーセキュリティー、「情報安全保障」は、「人間の安全保障」の部分集合でもありますし。

 最近ではサイバーテロや犯罪にインターネットテクノロジーが利用され、国際的な脅威が高まっています。自由な情報の流通を確保しつつも、危機に対応できる体制やサイバー攻撃に備えた国際的な協力体制が要求されます。

 例えば、「遠隔操作ウイルス事件」。容疑者が起訴内容を認めるなどして結末には驚きましたが、身に覚えがない人たちが誤認逮捕されたり、さらには自白させられたり。この手のケースは誰の身にも降りかかる可能性があります。こういったテクノロジーとの関わりによる事件は、工学系、エンジニアらだけに任せるのではなく、ヒューマンセキュリティーの一部としてじっくり取り組む課題です。

--研究者の道を選択したきっかけは。

 小学4年生の時、イギリスに行き、アジア人差別を体験しました。中学2年の時インドを訪問し、そこで重病患者の医療施設や、同世代の子供の物乞いが街のいたるところにいる風景に驚きました。世の中ちょっとおかしいなと。その経験が、専門のイギリス植民地、帝国史に興味を持った原因でした。インドのような国はどうやったら発展するのか、アフリカ諸国は独立したはいいが、これからどうすれば発展していくのか、国によって発展などの差が生まれるのはなぜか。そういった興味の先に、「人間の安全保障」もつながっているのです。

--学生や若者へのメッセージをお願いします。

 私は、小学校、中学校の時分をイギリスで過ごしました。日本は食生活は豊かで、便利で清潔で好きなんですけれども、外から、だからこそ見えるものもある。最近は少し内向きすぎるのではないかと感じます。古代には漢字を取り入れ、鎌倉仏教の時代は中国などの技術者を重用し、明治時代でも伝統的な文化を大事にしながら西洋のいいところを取り込んできた歴史があるのに、「取り入れずとも、そこそこでいいや」みたいなところがあるのではと。国内で生活できれば楽しいし安心。海外旅行でなく国内の温泉旅行が人気であることもそうです。自己完結で満足しているのではないかなと感じています。

 社会の空洞化が進み、外国に出て行かなければもたない国内の現状から見ても鎖国主義ではだめだと思います。日本文化を捨て去る必要は全くないが、誇り高きヨーロッパ人が大学では自国の言語を捨て英語で教育をしているように、日本人も鎖国を解いて、国際語としての英語でグローバルに飛躍してほしい。

 だから若い人たちには、海外の世界をぜひのぞいてほしいのです。そこには、「こんなこともあるんだ」とはっとさせられることがあふれています。海外旅行や短期の留学でもいい、まったりしないで、驚きを大事にするような人生を生きてほしいですね。

東海大学 教養学部 国際学科 教授
旦祐介(だん・ゆうすけ)
1956年東京都生まれ。80年東京大学教養学部教養学科卒業、82年米国アマースト大学卒業、88年東京大学大学院総合文化研究科国際関係論博士課程修了。2001年から現職。専門は国際関係論。米国・国際学学会(ISA)などに所属。著書に「21世紀の人間の安全保障」(共著)などがある。

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