身体づくり、幼児期から習慣付けを 課題は働き盛りの年代

 「何歳になっても元気で」とは万人の願いだ。それには日々の運動も必要だが、行動に移せずにいる人も多い。急速に進む高齢化社会に向け、ますますその重要性に注目が集まる生涯スポーツの意義と課題について、体育学部生涯スポーツ学科の須藤美智子教授に聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 江刺弘子】

--ランニングや登山がブームになるなど、さまざまなスポーツや身体づくりが注目されています。

 背景には高齢化率の高まりがあります。日本全体が健康に目を向け、最後まで自分の足で歩き、健康に暮らして日常生活をコントロールしたいという意識が浸透してきています。

 そういった中で東京マラソンや、厚生労働省の健康づくり運動「健康日本21」などが身体活動・運動促進活動の火付け役になりました。千葉県市川市ではウォーキングマップを作成し、スタンプラリーをするなどウォーキングを通じて市民の健康づくりに積極的に取り組んでいます。このようにハード、システム、ルールなどの環境が醸成されて、健康づくりが必要と感じる人が少しですが多くなってきたのでしょう。

--「少し多くなってきた」ということは、スポーツ活動の浸透はまだ途上ですか?

 ランニングや登山に取り組む中高年が多いと言われていますが、中高年といってもその中で働き盛りの人はどれだけいるでしょう。ブームといっても、働き盛りの年代が増えていないのです。そして健康診断で問題となるのはその年代です。30〜40代のメタボが多く、企業は必死になって特定健診、特定保健指導をしていますが、なかなか効果が出てきません。

--健康づくりの重要性を浸透させるにはどうすればよいのでしょうか。

 そこが非常に難しいのです。私は大手企業で従業員の健康づくりに携わっていました。しかし運動習慣保有者がなかなか増えないのです。一方で健康診断結果のデータは年齢とともにじりじりと悪化していきます。解決策も難しく、具体的にどういう人たちが運動をやってくれるかも、まだはっきりとはわかりません。

 運動をすれば精神的に健康になることは知られています。そして人は精神的に健康でないと運動はしません。企業は社員に一定水準の心の余裕を持たせてあげられるように配慮するのがカギなのかと考えます。

--心の安定は個々によるところが大きいように感じますが、企業が取り組むべきこととは?

 私は長く企業に勤めていましたので、今、大学で運動を教えている教員たちを見ると、こんなにも感覚が違うのかと驚きました。そもそも教員は運動をすることは楽しいことだと捉えていますが、企業では健康診断の結果をよくするために、社員にいかに運動をやってもらおうかと考えています。運動に対しての発想が違うのです。

 昨年の冬、大学でスキー実習に行ったのですが、そこで学生たちが一列に並んで、かけ声にあわせて、目をつぶったまま右を向いたり、左を向いたりするゲームをする機会がありました。何度か繰り返して、目をあけると、同じ向きに並んでいたはずが、向かい合わせになっていたり、全く別の方向を向いていたりで、学生たちは大笑いでした。

 私はその時、人はこんな簡単なことでも楽しいのだと気付きました。会社ではこの学生たちのように心の底から笑う場面をしばし見たことはありません。隣の席の人にもメールで用件を伝える時代です。コミュニケーションが薄れてしまい、人と人がふれあうことで笑う瞬間が作られていないと感じました。五感を使って笑うということが、社会人には少ないのです。

 「今日はこんなことで笑った、楽しかった」。そういうことがあって身体活動レベルを上げようという気持ちにつながることもあるはずです。

 TVの世界に目を転じると、TBS系で放送していた「ルーズヴェルト・ゲーム」では、野球部を通じて会社が一丸となります。「運動をしなくてもいい、応援に行く。そういうことで健康でいられる」ということがメッセージとして伝わりました。運動にはそういう力があり、スポーツに関わることも生涯スポーツなのです。

--子どもの運動不足も心配されます。

 子どもの身体能力の低下は、ゲームやスマホなどITの弊害のように言われることがあります。しかしゲームやスマホも使い方が問題なのであって、機器そのものや開発企業の問題ではありません。

 親が自分の子どもをどう育てたいかを考え、ルールを作ることで子どもの運動不足を防ぐことはできます。子どもの人生の軸をどこに置くか、親は真剣に考えるべきです。身体を動かすこともしつけです。不便を便利にすることで運動不足になっていないでしょうか。例えば、朝のラジオ体操は早起きがつらいけれど、やらなければいけない。それが将来的に健康な身体づくりにつながっているのです。

 健康診断の結果がよくなかったから、少し身体を動かしてみようかと思うことがありますよね。小さい時に身体を動かす体験をしていると、大人になった時にそれを思い出すことができます。親は子どもを、自分の健康のためには現状の運動量が足りているかを振り返ることができる人に育ててほしいです。

--学校はどうでしょうか。

 企業で社員の体重を10年間ぐらい追ってみると、入社直後が一番、体重が増加しています。学生時代を終え、企業に入ると一番太る。太ると血圧や血中脂質が上がり、体重コントロールができなくなります。

 東海大学は体育が必修科目ですが、大抵の大学はそうではありません。学習指導要領は高校までなので、大学で体力がすっかり衰える可能性があるのです。人間は安易なほうに流れ、身体を動かすチャンスがなくなればやらなくなり、就職後もそのままです。

 大学教育の中で体育の重要性を考えてもらいたいと願います。大学生時代に運動を肯定的にとらえると、生涯スポーツにつながっているという研究結果もあります。

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