オピニオン 未来の燃料「水素エネルギー」世界リードする研究を 工学部原子力工学科 内田裕久教授

 次世代の再生可能エネルギーとして、環境負荷が低く、エネルギー効率は高い水素への注目が集まっている。水素と酸素の化学反応で電気を起こす燃料電池で走る自動車の開発競争も本格化、700万円台のモデルも登場した。水素エネルギーに関する研究の権威である内田裕久教授に、水素を使うメリットや、最新の研究成果などを語ってもらった。【毎日新聞社デジタルメディア局 太田圭介】

――水素への期待が高まる背景は何なのでしょうか。エネルギー源としての水素の特徴を含めて教えてください。

 石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料は使い果たせばなくなります。一方で水素は、水を電気分解すればいくらでもとることができ、燃料電池を使えば発電もできます。また、自然条件に発電量が左右される太陽光や風力による発電も、作った電気で水を分解すれば水素の形で電力を貯蔵できるので、水素がこれら再生可能エネルギーの普及にも役立つと言えます。資源小国の日本にとって、水素は将来性のある有力なエネルギーなのです。

――水素エネルギーに興味を持ったきっかけは何だったのですか。

 東海大学工学部の学生時代は、応用物理学などエネルギーとは直接関係のない研究をしていました。大学院で指導教員から「水素と金属の反応に関する研究をやってみないか」と勧められ、この分野の研究を始めました。修士課程を終えてからドイツのシュツットガルト大学大学院で博士号を取得し、シュツットガルトにあるマックス・プランク金属研究所というドイツを代表する研究機関に移りました。


ベトナムの経済政策などを話し合う国際シンポジウムに出展された燃料電池バイクにまたがる内田裕久教授=ベトナム・ハノイで2005年2月(内田教授提供)

 シュツットガルトにはダイムラー・ベンツの本拠地があり、私がいた1970年代後半から水素を燃料とするエンジンを積んだ自動車が街中を走っていました。未来の燃料で走る車がすでに普通のナンバーを付けて走っている姿を見て「すごいな」と感動しました。水素エネルギーへの関心が一気に高まり、現地で水素エンジン自動車の研究開発にも関わりました。その後、「後輩たちの指導をしないか」と東海大学から打診を受けて帰国し、今日まで母校で教壇に立っています。

――水素エネルギーに関する研究が進み、すでに製品化された技術もあるようですね。

 実用化された代表例は何と言っても、水しか排出しないことから究極のエコカーと呼ばれる燃料電池自動車でしょう。燃料電池自動車の技術に関して日本は世界トップレベルにあり、日本のトヨタとホンダがドイツのダイムラー・ベンツと競い合っている状況です。10年前には1台1億円はする非常に高価な乗り物でしたが、世界初の量産モデルとして先日発売されたトヨタのMIRAI(ミライ)は、さまざまな技術開発で700万円程度まで値段が下がりました。

 これに加え、発電と給湯の双方をこなす家庭用燃料電池の「エネファーム」も人気が高まり、累計販売台数が全国で10万台を突破しています。国や自治体の手厚い補助金が普及を後押ししているようです。


燃料電池と水素技術に関する国際シンポジウムの会場で、来場者に研究内容を説明する内田研究室の大学院生=インドネシア・ジョグジャカルタで2013年10月(内田教授提供)

――水素エネルギーの実用化を加速するために、どのような支援体制が必要と考えますか。

 高価な燃料電池自動車を普及させるには補助金が当面、必要不可欠です。MIRAIを例に取れば、国から1台200万円の補助金が出ます。これに加え、舛添要一東京都知事は都独自の補助金を1台当たり100万円出し、実質400万円程度の負担で購入できるよう支援する構えです。東京都は2020年東京五輪までに燃料電池自動車6000台の普及を目指していて、舛添知事が11月の都議会本会議で「50年前の五輪では新幹線が残ったが、2020年の後に何を残すか。私の答えは水素社会だ」と所信表明するなど、強い覚悟が伝わってきます。

 東京都以外にも神奈川県が黒岩祐治知事の「水素革命」政策にあわせて、経済産業省、自動車・石油・ガスなどの関連企業を集めて、県庁内に「かながわ次世代自動車普及推進協議会」という勉強会を設けています。県参与をしていた関係もあり、協議会には私も協力しています。

オピニオンの一覧